アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏が金曜日に発表された雇用統計と今後のFed(連邦準備制度)の金融政策について、Bloombergのインタビューで語っているので紹介したい。
2月の雇用統計
まずは金曜日に発表された雇用統計からである。サマーズ氏は今回のデータを強弱入り混じった内容だったとして、次のように言っている。
インフレを心配するタイプの人なら実体経済の強さとより引き締まった労働市場を強調するだろうし、インフレをそれほど心配しないタイプの人なら賃金インフレが低かったことを強調するだろう。
だからこのデータがそれほど多くの人の考えを変えることはないだろう。
公表されたデータを見返すと、失業率は上がり、賃金のインフレ率は下がった。
「引き締まった労働市場」というのは、被雇用者の数自体が増えたことだが、失業率が上がっているので失業者もそれ以上に増えていることを意味する。
重要なのはインフレである。労働市場全体のパイは増えたわけだが、それはGDPには影響するかもしれないが、インフレとは全体の大きさではなく1つのものの価格である。
経済全体が大きくなろうが小さくなろうが、1つのものの値段が上がるか下がるかがインフレ率を決める。
そして賃金のインフレ率は下がった。つまり、市場規模は大きくなったが価格のインフレは減速している。サマーズ氏は学者らしく様々なリスクシナリオに言及することが多いが、筆者の意見ではやはり今回の雇用統計はデフレ寄りだ。
サマーズ氏は今後のアメリカのインフレについて次のように述べている。
インフレはこれからコアインフレが4.5%か5%程度で推移するというのが確からしく見える。
そしてそれが正しければ、Fed(連邦準備制度)は更にやることがあるということだ。
Fedの定める政策金利は現在4.5%である。
インフレ率と政策金利
インフレの今後の推移については筆者とサマーズ氏は同じ意見である。恐らくサマーズ氏は筆者と同じように前月比年率のコアインフレ率を重視しているのだろう。
5%に収束してきている。
一方で政策金利の予想についてはどうなるだろうか。サマーズ氏は次のように続けている。
纏めると、インフレは5%に近く、金利は5%近辺だ。金利とインフレ率が同じような水準では、インフレに対するそれほど大きな下方圧力にはならないだろう。
そしてサマーズ氏は政策金利について次のように言う。
政策金利は最終的には6%近くまで上げなければならなくなる可能性がかなり高いだろう。
わたしの今の予想では、政策金利が6%かそれ以上まで上がる可能性は五分五分に近い。
サマーズ氏は雇用統計前のインタビューで次のように言っていた。
わたしのメインシナリオは5.5%かそれよりやや高いくらいだが、6%になってもそれほどは驚かない。
だからこの雇用統計を受けてサマーズ氏の政策金利予想は少し上がったようだ。
結論
筆者はむしろこの雇用統計をデフレ的に取ったので、ここは筆者とサマーズ氏で異なるところだ。そもそもこれまでの金融政策でインフレ率は下がってきているのだから、これ以上に引き締め側に寄ればハードランディングになってしまう。そして債券市場もそれを織り込んでいる。
平均時給も前月比年率で見ればここ1年既に緩やかに減速してきているのである。
引き締めは効いている。だが時間がかかるだけである。ジョン・ポールソン氏もタイムラグ効果に言及していた。
だがサマーズ氏も結局は火曜日に発表されるCPI(消費者物価指数)の数字次第だとしている。筆者は株式を空売りしているので、ハードランディングでも一向に構わないのだが。
CPIのデータもいつものように報じるつもりなので楽しみにしてもらいたい。