世界最大のヘッジファンド: 対露制裁はロシアには効かずドルの覇権に傷を付けた

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が自身のブログで対露制裁の功罪について語っている。

対ロシア経済制裁

2022年2月、ロシアがウクライナに侵攻して以来、アメリカを中心とする西側諸国はロシアに経済制裁を行なってきた。

ニュースでも流れたように、ロシア人のものであればヨーロッパに停泊しているボートですら無条件で没収される有様であり、日本人は「ロシア人だから盗まれたのであって自分には関係ない」と思うかもしれないが、他のもう少し賢明な国々は西洋諸国に自分の資産を置くことを心配し始めている。

より広い話をすれば、経済制裁の中心になったのはドルを使った決済システムである。アメリカやEUはロシアの侵攻を口実にロシアに関する資金の流れを止めた。

無関係な国々にもロシアとの貿易を行わないよう、同じくドル中心の決済システムを盾に脅しつけた。

西側メディアの話しか聞いていない日本人には、2022年にロシアが突如ウクライナに侵攻したように見える。だが国際的な見方はそうではない。経済学者ラリー・サマーズ氏は次のように言っていた。

だが国連総会における最初の投票で世界人口の半分以上に相当する国々が、ロシアを非難する決議への参加を拒否し、ロシアの側に立って棄権したことを覚えておくべきだ。

何故か。ウクライナ侵攻は2022年に突如起こったわけではないからである。それが突如起こったように見えるのは、ウクライナにおける2022年以前の紛争について日本人が何も聞かされていないからである。

ビクトリア・ヌーランド氏

実際には、2014年に選挙で選ばれた親露政権が暴力によって追い出されたクーデターがアメリカとEUの支援のもとウクライナで発生し、その後アメリカの外交官ビクトリア・ヌーランド氏の意向によって親米政権が発足した。これがマイダン革命(恐らくこの言葉さえほとんどの日本人は知らない)である。

ヌーランド氏は当時、ウクライナ介入に消極的だったEUを「Fuck the EU」と罵った音声をリークされたことで有名であり、ロシアを攻撃したいが自国民は犠牲にしたくないアメリカが自国民の代わりにウクライナ国民を対ロシア用の尖兵として使う計画はこの頃から進んでいた。

ちなみにヌーランド氏は今、バイデン政権の国務次官である。ジム・ロジャーズ氏は次のように言っている。

ワシントンは戦争を欲しているようだ。ワシントンの政治家は無能でどうしようもない。

ビクトリア・ヌーランドという名前の官僚の女性がウクライナにおける2014年のクーデターを支援し、今の反ロシアかつ親ビクトリア・ヌーランドのウクライナ政権を打ち立て、それが今まで尾を引いている。

そして彼女は今また争いを煽っているようだ。

無関係の国々の反応

情報統制された日本とは違い、こうした状況を知っている国はどう反応しているか。ダリオ氏は次のように述べている。

ロシアに対するアメリカの制裁は効果がないことが分かったばかりか、ドル建ての債券を保有することのリスクを他の国々の指導者たちが憂慮する結果となった。

ハンガリーは初めから「最大の目的はこの戦争に巻き込まれないこと」であると言っていた。ハンガリーはロシア産のエネルギー禁輸に反対し続けている。

一方でそもそもロシア制裁はロシア経済に効いていない。それは反ロシアであるジョージ・ソロス氏自身が言っている。

アメリカやヨーロッパや日本がロシアから原油を買わないならば、中国やインドやハンガリーが喜んで買うだろう。結果として日本人がエネルギー価格高騰で無意味に苦しむ一方で、ロシアにはその制裁は効かず、中立国には潤沢なエネルギー資源が舞い込むことになる。

ドルの覇権

その貿易に使われる通貨の変化が、ドルの覇権にとって重要である。

ドル紙幣をいくら刷ってもドルが下落しなかったのは、世界の貿易においてドルが使われていたからである。ドルをいくら刷ってもドルを買う国々が存在した。

だがドルを使っていればアメリカの政治的都合で資金を没収されかねないと知った中立国は、ドルに代わる通貨を探し始めている。

その筆頭は人民元である。ダリオ氏はこう続ける。

同時に中国は人民元を国際化しようとしている。人民元建ての貿易や資本移動はますます増えている。

これらの動きはドルとドル建て資産の長期的な需要にとってダメージとなりうる。

つまり日本を含む西側諸国は無意味な対露制裁で自国民を苦しめた挙げ句、基軸通貨としてのドルの価値に傷を付けたのである。

第3国の漁夫の利

こうした状況から一番利益を得ているのは、アメリカでもロシアでも日本でもない第3国である。ダリオ氏は次のように言う。

こうした戦争に参加していない国々の中で国力が成長している国、例えばインド、シンガポール、インドネシアやベトナムなどのASEAN諸国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦などの国々は、この状況から利益を得ている。

西洋諸国が勝手に苦しむ分のエネルギー資源が勝手に入ってくるのである。アメリカはそれを阻止しようとしているが、そうした行動はますます他国をアメリカから離れさせるだろう。

ダリオ氏は投資家らしく、この状況における経済的な勝者が誰であるかを考えているようだ。この状況で何処に自分の資産を投資すべきなのか? ダリオ氏は勝者となる国の3つの条件を挙げている。

  • 消費するよりも多く収入を得ており、財政が健全である国
  • 国内政治が秩序だっており、繁栄のための他の好条件も揃っている国
  • 戦争に参加しそうにない国

日本はどうだろうか。日本は国民に重税とインフレを課して全力で票田に忖度する自民党を国民総出でサポートするという点で国内政治は秩序だっているが、一方でアメリカへの協力を通して意図的にロシアに危害を加えているので、ロシアからの反撃は想定されて当然だろう。

彼らは戦争を望むアメリカをサポートすることで自国がウクライナとまったく同じ状況に置かれているということに気付いていない。

一方で中立を保とうとする国の苦難もある。スイスはウクライナに砲弾を供給することを拒否したことでドイツから非難されている。

ドイツのハーベック副首相は「スイスがゲパルト用砲弾を供給しない理由が理解できない」と言っているが、スイスは第2次世界大戦時と同じように、またもや中立であろうとしていることでドイツに攻撃されている。ドイツ人は本当にまったく変わっていない。

だがこうした状況を見たまともな国の思考回路は1つである。馬鹿げた圧力を掛けてくる国とは距離を置くことである。西洋のこうした国々はこれからますます孤立するだろう。

結論

ダリオ氏が指摘するように、ウクライナを巡って世界は大きく動いている。だがそれは西側に情報統制された日本のメディアが伝えるように動いているのではない。

英語のニュースでは当たり前のように流れてくるこうした情報も、日本のニュースではほとんど語られることがない。日本のメディアはアメリカのためにウクライナを戦場にしたウクライナ政府に不利になる情報を必死に報じないようにしている。

だが筆者の意見ではこの情報統制は日本の外交に致命的な結末をもたらす。

第2次世界大戦において過去のヨーロッパの戦争で負けた試ししかないドイツと組んだ致命的な失策に最後まで気付かなかったように、日本人は国際政治において自分がどのように動いているのか、実際に自国が戦場になるまで気付かないだろう。

彼らは実際にインフレが来るまでインフレが物価高という意味だということに気付かなかった人々なのだから、その結末はかなりの確率で実現すると筆者は考えている。そしてそれは自業自得である。