引き続き、リーマンショックでサブプライムローンを空売りして巨額の利益を上げたヘッジファンドマネージャー、ジョン・ポールソン氏のアラン・エルカン氏によるインタビューである。
今回はアメリカの利上げと株式市場について語った部分を取り上げたい。
株価下落をもたらした金融引き締め
前回のインタビュー記事では、現在の世界的な物価高騰の原因がウクライナ情勢ではなく現金給付と量的緩和であり、その兆候は2020年には既に金融市場に表れていたことを説明した。
だが紙幣印刷を行なったFed(連邦準備制度)のパウエル議長はその非を認めず、インフレが起こってからも長らく緩和を続けた。
だがそれが現在の問題を引き起こした。ポールソン氏は次のように言う。
だから彼らは非常に強烈な金融引き締めの加速を行ない、金利を非常に強烈に上げなければならなかった。
それが2022年の米国株の下落をもたらした。米国株のチャートは次のようになっている。
だが高値からの下げ幅は20%で、1970年代の物価高騰時代に起こった50%下落に比べればまだまだだ。
また、アメリカのGDPは減速はしているもののまだ何とか持ちこたえている。
金利が上昇してから倒産が増加するまで
これは高金利の影響が意外と少なかったことを意味するのだろうか? それともそれがまだ来ていないことを意味するのだろうか?
ポールソン氏は次のように続ける。
高金利の影響はまだほとんど出ていない。
何故ならば、高金利が経済に影響を与えるまでにはタイムラグがあるからだ。
だがその主張には根拠が必要だ。そしてポールソン氏がここで取り上げる根拠は企業が倒産するまでの過程である。
ポールソン氏はまず次のように主張する。
2023年には債券のデフォルト率や企業の倒産率が上がると予想している。
だが何故それは金利の上がり始めた2022年ではなく、2023年に起こるのか? その理由は低金利によって延命されてきたゾンビ企業の延命のプロセスにある。
リーマンショック以降、ゼロ金利によって利息を払わずにお金が借りられるようになったことで、何の利益も生み出さないようなゾンビ企業でも、お金を借りて返済期限が来た時にはもう一度お金を借りる(つまり借り換える)ことによっていくらでも延命することができた。
だが金利が上がれば、お金を借りている間金利を払わなければならない。その金利が莫大であれば、本当に利益を上げている企業しか生き残れなくなる。
ポールソン氏は次のように説明する。
5%の金利でお金を借りても、返済期限にならない限り金利上昇は問題にならない。
だが返済期限になり、その時に12%や13%や15%の金利を払わないと借り換えが出来なくなっている時、あるいは借り換えがもうまったく出来なくなっている時には、債券は満期になった時点でデフォルトする。
これは経済学者ラリー・サマーズ氏が説明していたインフレと住宅価格の関係に似ている。
住宅価格はもう1年近く下落を続けているが、CPI(消費者物価指数)の住宅の要素はインフレが加速している。
これは何故かと言えば、住宅価格が下がっても、賃貸契約は契約更新の日が来ない限り同じ家賃で留まり続けるからである。
だから住宅関連のインフレは住宅価格よりも1年から3年ほど遅延することになる。
これは債券も同じで、市場の金利が上がっても借り換えを行わない限り借り手は契約で決まった金利を払い続けるので問題にならない。
だが返済期限が到来した時、高騰した金利で借り換えを行わなければならない時には、ゾンビ企業はようやく倒産することになる。
結論
ポールソン氏は次のように予想する。
今年にはより多くの債券が満期になるが、借り換えの選択肢は限られている。デフォルト率は上がり、倒産は増えるだろう。
そうなれば、今の市場の熱狂とFedが資金を引き揚げていることも考え、株式市場も恐らく第2四半期には調整し、今の水準から下落することになるだろう。
わたしの意見では、株価はそのまま今年中下落することになる。現在の株価上昇は持続可能ではない。
筆者も同意見である。筆者の株価下落予想については以下の記事を参考にしてもらいたい。
今年の市場には持続不可能なものが多い。もっとサステイナブルにすべきではないのかとサステイナブル好きな政治家に言ってやるべきだろう。