アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が、Bloombergのインタビューでアメリカとインフレと経済成長の動向について予想を述べている。
アメリカのインフレはどうなるか
ここの読者には周知の通り、インフレ率の数字自体は9%から6%まで急激に下がってきている。
だがそれはコロナ後の未曾有の現金給付で2020年後半から上昇を続けていた金属や農作物などのコモディティ価格が、Fed(連邦準備制度)の利上げによって2022年半ばから急落しているからで、サービスや住宅価格などの核心的な部分のインフレはいまだに加速しており、インフレは二極化した状況を示している。
こうした状況を受け、経済学者の中でも経済予想を当てられることで有名なサマーズ氏でさえ、次のように心境を率直に吐露している。
今の経済状況は非常に読み解くのが難しい。
彼はインフレデータのうち強い部分について次のように述べている。
一方では非常に強い経済統計が出ている。こうしたデータは、インフレは経済の有意な減速なしには2%には戻らないというわたしの従来からの見方を確認している。
インフレは一定期間の間下がるかもしれないが、それは一時的な上昇分が下落しただけのことで、インフレ率を長期的に2%に戻すには十分ではない。
筆者や債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は、コモディティ価格下落によるインフレ率急落効果は今年の半ばまで続くと考えている。
一方で、コモディティ市場の影響を省いた他の部分、例えば食品とエネルギーを除くコアインフレ率(前月比年率)は次のように推移している。
大体5%で推移しており、だからコモディティ市場効果剥落後のインフレ率はそれくらいになるはずである。
つまり、サマーズ氏の言う通り、コモディティ価格が下がるだけでは2%には戻らないのである。
分断されたアメリカ経済
一方で、アメリカ経済は万事順調かと言えば、そうでもない。サマーズ氏は次のように付け加える。
他の大きな懸念は、実体経済に沿って動く要素が強く推移しているように見える一方で、困難に直面している様々な重要な要素があることだ。
株式市場やコモディティ市場は2022年から軟調だ。経済のうちどの部分が強くどの部分が弱いかと言えば、サマーズ氏の「実体経済に沿って動く要素」が強いという言葉が筆者のこれまでの分析と合致していることに読者は気付くだろう。
インフレのうち根強いのはサービスのインフレだが、それは金融引き締めが一番効くにくい箇所である。一方でそれが何に左右されるかと言えば、実体経済の強さであることを以下の記事で示しておいた。
それがどういう意味かと言えば、サービスのインフレを沈めようと思えば実体経済も沈めざるを得ないということ、サービスのインフレと実体経済は一蓮托生であるということである。
だからインフレ率を下落させるためには実体経済の落ち込みが不可欠となる。それは米国株のこれからの先行きを物語っている。
結論
Fedのパウエル議長はインフレが一時的だと主張していたとき、インフレがもし一時的でなければどうするかと聞かれて、「その時は中央銀行にはインフレに対処するための手段があるから心配は無用だ」と言っていた。
果たして中央銀行はインフレを止められるのだろうか。サマーズ氏は当時のパウエル氏の発言を皮肉って次のように言っている。
いいだろうか。車はブレーキを十分強く踏めばいつでも止められる。だがそれは車が滑ったり何かにぶつかったりせずに止まれることまでは保証してくれない。
そうだ、Fedはインフレを止められる。だがソフトランディングで実体経済に大きな影響を与えずにインフレを止められるかどうかは、かなり怪しくなっている。
一瞬ソフトランディング期待に振れていたサマーズ氏だが、期待は一瞬で消えたようだ。