世界最大のヘッジファンド、Bridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が自身のブログで米国経済とアメリカの覇権について語っている。
膨大な政府債務の行方
コロナ以後、政府がばら撒きを行なって借金を増大させることを見込み、ダリオ氏は過去の覇権国家が債務を増やし続けた結果どうなったかについての研究を行なってきた。
今回の彼のテーマは国家の財政における長期の債務サイクルである。彼は次のように説明している。
長期の債務サイクルとは、国が長い年月をかけて債務を積み上げ、最終的に持続不可能になるまでのサイクルのことである。
持続不可能になった債務は、最終的には債務再編と財政ファイナンスに繋がり、それは市場と経済に大きな混乱の期間を引き起こす。
上記の記事で説明されているように、大英帝国もオランダ海上帝国も債務を増やし続け、その結果衰退した。だがそれには何十年以上の年月がかかった。
その過程に実際に生きていると、リーマンショック以後10年以上紙幣印刷で政府債務を賄い続けて何の問題もなかったかのように見えるが、歴史の観点から見れば10年など一瞬である。
アメリカも日本も着実に終わりに近づいている。ダリオ氏は次のように述べている。
アメリカは1945年に始まったこのサイクルのうち大体85%程度を終了していると考えている。
経済力は国際的影響力をも意味するので、アメリカの場合、これは世界におけるアメリカの覇権の寿命が85%終わっていることを意味している。
それとも大英帝国もオランダ海上帝国も避けられなかったバッドエンドをアメリカだけが逃れられるのだろうか?
政府債務はどうなるか
日本もアメリカも莫大な政府債務を積み上げている。それに対処する1つの方法が低金利だった。
金利をゼロにすれば政府は莫大な債務に金利を支払わなくて良い。だがそれは問題を引き起こす。ダリオ氏は次のように説明する。
国の財務状況が悪化するとき、国は債務を返済することができなくなる。ここで問題は、借金を返せないとき国が債務負担をどうするかである。
それでどうするか? ダリオ氏は次のように続ける。
それは主に中央銀行と政府次第である。中央銀行が金利を上げ、貨幣量を減らせば、実体経済で倒産や債務再編が起こり、債権者の得る実質リターンは減る。
一方、中央銀行が金利を低く保ち、あるいは紙幣を印刷した場合、債権者は満額の紙幣の返済を受けるが、その紙幣の価値は下がっている(例えばもはや紙幣で同じだけのものが買えなくなっている)。
やや難しい言葉で書かれているかもしれないが、これはまさに今のアメリカ経済や日本経済の状況である。
まずコロナ後に世界中の政府が現金給付でばら撒きを行ない、2021年にはインフレを引き起こした。2022年2月のウクライナ情勢がインフレの原因だと思っている人は、原油の市場価格やインフレ統計を見ていないだけである。
政府が紙幣をばら撒けたのは、中央銀行が金利を低く保ち、紙幣印刷をして国債を買い入れたからである。低金利と紙幣印刷がばら撒きをもたらし、ばら撒きが物価高騰をもたらした。
慌てて低金利を止め、金利を大きく引き上げたFed(連邦準備制度)のパウエル議長だが、それは2022年の株価下落をもたらした。筆者の見解ではそれはまだ終わっておらず、2023年には実体経済に大きな影響が出るだろう。
そして遂に日本でもインフレ率は4%まで上がり、あの日銀さえも(実質)利上げを行わなければならなくなった。日本の紙幣印刷はアメリカよりもかなり酷い状況に陥っているが、黒田氏を支えた副総裁たちが次期総裁への就任を断ったのは、彼ら自身状況がどうしようもないと知っているからである。
要するに、日本もアメリカも金利を上げれば景気後退になり、緩和を続ければ物価高騰が天井を突き抜けて全国民の預金が文字通り紙切れになるという、もうどうしようもない状況に陥っている。
借金は何故生まれたか
何故こうなったか? そもそも何故日本やアメリカは莫大な債務や年金などの支払い義務を抱えているのか?
その理由を説明する一番分かりやすい例は、すべての先進国政府が過去に行なった金本位制度の廃止である。紙幣とは元々国民が銀行にゴールドを預けた時の預かり証だった。だが日本政府や米国政府は国民からゴールドを預かっておきながら、その返却を断った。
何故ゴールドの単なる略奪であるところの金本位制度廃止が世間一般に好意的に語られているのか筆者にはまったく分からないが、金本位制度廃止とは単に政府が預かっていたゴールドを勝手に使ってしまったというだけのことである。アメリカではこの出来事はニクソンショックと呼ばれる。
そして国民は何とも交換できなくなったただの紙切れを今なお後生大事に財布に入れている。それは本当にただの紙切れなのだが。
ちなみに政府が預かっていた金を勝手に使ってしまった事例は当然ながら金本位制度だけではない。例えば年金制度は自分が若い頃に積み上げた資金をあとで受け取るだけならば破綻しようがない制度であるわけなのだが、年金制度は何故か受け取るべきお金が減額されたりして話題になっている。
何故なのか? これから受け取る金額を減額される人々が若い頃に支払っていたお金は何処に行ったのか?
もうお分かりだろうがそれも政府が既に使ってしまっているから今の高齢者の分を若者から取り立てなければならないのである。本当ならば今の高齢者の分は高齢者自身が昔支払っているはずであり、それだけを受け取っていれば誰も困らないはずである。
だが今の受け取り手が昔支払った分は、中央銀行が預かっていたはずのゴールドと同じように何処かに消えている。世界的なヘッジファンドマネージャーであるスタンレー・ドラッケンミラー氏はこの点を痛烈に批判している。
結論
ということで、日本もアメリカもその経済は8割方終了している。それが長期で見た場合の経済的事実である。
アメリカの場合、当然ながらそれは軍事的プレゼンスにも影響する。それがアメリカがアフガニスタンから撤退する際にタリバンに兵器をお布施するような状況に繋がっている。
何度も言っているが、こういう馬鹿げた状況になった一番の原因は、国民から金を盗むことしか考えていない政治家どもを愚かな有権者が何十年にもわたって当選させ続けてきたからである。
日本国民はコロナ禍で平然と東京五輪を行なった自民党を平然と当選させた。何度も言っているが、殴られても愛想笑いを浮かべ続けるだけの人間は何度でも殴られ続ける。彼らが自分で選んだ人生である。
だがもう少し考える頭のある人々に言いたいのだが、政府から紙幣が降ってきて喜んでいる場合ではない。もっとよく考えなければインフレも降ってくるからである。彼らはあなたがたのことなど微塵も考えていない。幻想から覚めるべきである。