アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏が、動向が注目されているアメリカのインフレ率についてコメントしている。
インフレは止まるのか
インフレの動向が注目されている。インフレ率は全体の数字としては下落が続いているが、住宅やサービスの物価は加速が続いており、止まる気配が見えていない。
この状況についてサマーズ氏は次のように述べている。
Fed(連邦準備制度)は長らくインフレにブレーキを踏もうとしているが、どうやらブレーキはあまり利いていないようだ。
実体経済では需要が物凄く強いということは明らかだ。埋まっていない求人は過去最高の水準で、失業率は最低水準だ。小売店売上は炎上している。最新月のデータでは、経済は人口増加の5倍の速い速度で求人を生み出している。
筆者はアメリカ経済が強いという状況をあまり好意的には捉えていなかったが、サマーズ氏はソフトランディングの可能性も見えてきたとして好意的に捉えていた。
だが今回のインフレ統計でサマーズ氏も筆者の意見に寄ったようだ。彼は次のように述べている。
市場参加者はパラダイムシフトを強いられるだろう。
利上げが長期停止するまであとどれだけ0.25%の利上げがあるかという問題だったものが、あと何ヶ月も利上げは終着点に達しないのではないか、あるいは0.25%以上の利上げが必要なのではないかという可能性が上がっている。
金利については、筆者は5%程度となっている現在の織り込みが大枠では正しいと考えている。詳細は以下の記事を読んでもらいたい。
怪しくなりつつあるソフトランディング期待
一方で、サマーズ氏は利上げを継続するにしても難しい状況になると言っている。彼は次のように続けている。
だが、インフレが減速していないからブレーキを非常に強く踏まなければならないと主張する人々が必ずしも正しいとは思わない。
在庫が積み上がっていること、貯蓄率の動向、どれだけ多くの企業が給料を上げなければならなかったか、そして株式市場にやや熱狂が戻りつつある兆候のあることを考えれば、来月とは言わないが数ヶ月のうちには経済が突如崖から滑り落ちる瞬間が来るかもしれない。
サマーズ氏の批評のうち、貯蓄率への言及は非常に重要である。
貯蓄率は可処分所得のうちどれだけが消費に回されずに残るかを示したもので、重要な経済指標として筆者が度々取り上げるものだが、貯蓄率のグラフは現在次のようになっている。
貯蓄率はこれまでインフレにより下落してきた。物価高騰で、本来貯金に回すお金を消費に向けなければならなかったからである。
だがその貯蓄率の下落は去年半ばには止まり、今では上昇に転じている。貯蓄に回す分を削るにも限界があるからである。
ここにジェフリー・ガンドラック氏が以下のように指摘していたことを合わせるとアメリカ経済の状況が見えてくる。
2022年には食料品とガソリンのために消費者は借り入れ額を増やした。「人々はクレジットカードを大胆に使うことにためらいがない、これは将来にとって良い兆しだ」などというのは単純に馬鹿げている。人々は好んでそうしているわけではない。そうせざるを得ないだけだ。
つまり、物価高騰のために貯蓄を削りクレジットカード残高に頼って消費をしていたアメリカの消費者の懐にも限界が近づいているのではないか。事実、アメリカの実質個人消費はここ数ヶ月のあいだ減少している。
結論
サマーズ氏は以下のように纏める。
ブレーキを非常に強く踏む場合、非常に強く踏んだまさにその瞬間に、上昇し始めている貯蓄率や過剰な在庫などの周期的な悪材料が効果を表し始め、危険な滑落を引き起こすリスクがある。
インフレは全体としては着実に下落に向かっており、最後のひと押しが必要となっている。だが最後のひと押しのコストが楽観論者が考えているよりも大きいということが明らかになりつつあるのではないか。
投資家としてはこれらの結論をポートフォリオに反映させる必要がある。また別の記事を書くので楽しみにしていてもらいたい。