1月のアメリカのインフレ率はソフトランディングが不可能であることを示している

さて、世界中の投資家が注目するアメリカのCPI(消費者物価指数)である。

2月14日に発表されたデータによると、1月のアメリカのインフレ率は6.3%(前年同月比、以下同じ)となった。前回の6.4%から減速はしたものの、何ヶ月も急落していたインフレ率の急落が鈍化した形となる。

鈍化したアメリカのインフレ率下落

まずはチャートから見てみよう。アメリカのインフレ率は以下のようになっている。

ここ数ヶ月急落が続いていたインフレ率だが、1月は傾きが緩やかになっている。

これをどう見るかである。このグラフだけ見ていても何も分からないので、いつも通り内訳を見てゆきたい。

エネルギーは短期的なインフレ加速

まずエネルギーだが、エネルギーのインフレ率は8.4%となり、前回の7.1%からやや加速した。

これは短期的な反発であって中期的には続かない。何故ならば、前年同月比のデータで言えば、比較対象となる前年には、2月以降ウクライナ情勢によって原油価格の短期的な高騰が見られているからである。

これは来月以降の前年同期比のインフレ率には不利な状況であり、前年同月比のデータがここから更に加速していくことはない。

だがチャートを見て分かるように、ウクライナ情勢による原油価格の一時的な高騰も、実は対露制裁が迂回されておりまったく意味のないものだと明らかになるとすぐに収まっており、その後はアメリカの金融引き締めによる価格下落トレンドに従っている。

だが少なくとも「前年が高い」ことによる前年同期比インフレの減速もそろそろここまでだと思うべきだろう。その後どうなるかは原油市場次第だが、今のところは原油市場は上記のように下落トレンドを継続している。

加速が続く住宅インフレ

住宅のインフレ率は8.3%となり、前月の8.1%から加速した。

住宅市場のインフレが長らく続いている。アメリカの利上げで住宅ローン金利が高騰していることにより、住宅価格そのものは去年4月から下がり続けている。

それでもCPIの住宅の要素のインフレは止まっていない。これは経済学者ラリー・サマーズ氏が以前指摘していた遅延効果によるものだろう。

そもそも、ケース・シラー住宅価格指数の上昇率は一時20%にも及んでおり、CPIの住宅の項目の上昇が8%で済んでいることがおかしいのである。その分が遅れて来ている。だが住宅価格自体がもう長らく下がっているので、長期的にはCPIもそれに従うはずだが、いつ減速に転じるかである。

加速続くサービスのインフレ

最後にサービスのインフレである。

エネルギー関連除くサービスのインフレ率は7.2%となり、前月の7.0%から加速した。

ここに驚きはないだろう。何故ならば、サービス業の主要なコストである賃金のインフレが収まっていないことは、先に発表された雇用統計から分かっていたからである。

アメリカのインフレ推移はどうなるか

ということで、一時的な加速であるエネルギーのインフレも含めると、今回のデータはかなりインフレ的なデータとなった。

前年同期比のエネルギーの減速も2月、3月の峠を超えれば急激なものではなくなる。そろそろ本格的にその後のインフレ率がどうなるのか、インフレ率は何処に収まるのかを考える必要がある。

それを示唆してくれるデータは、恐らく前月比年率(前月のデータからの上昇率が1年続けばインフレ率はどうなるかを示したもの)のコアインフレ率だろう。

コアインフレは(奇妙な独自の定義を利用している日本を除けば)食品とエネルギーを除いた要素のインフレのことである。このデータを前年の数字に左右されない前月比年率の数字で見れば、金融引き締めによるエネルギーや農作物などのコモディティ市場の減速を除いたインフレの今の姿が浮かび上がる。

そのグラフはこうなっている。

5%に収束している。

結論

このデータから考えれば、恐らくだが5%という政策金利の水準はインフレを退治するためには正しいのだと思う。

一方で、ここ数ヶ月のデータを見て筆者が感じていることがある。サービスなどの核心的なインフレの要素は、恐らくアメリカの景気が落ち込まなければ減速して来ないのだろう。

バイデン大統領などはGDP成長率が落ちていないことを喜んでいるが、それはサービスのインフレが落ちて来ていないからである。

GDP成長率とコアなインフレは恐らく一蓮托生である。コアなインフレが下落するためには経済成長が落ち込まなければならない。

サービスのインフレと景気について考察した以下の記事は非常に重要なのでよく読んでおいてもらいたい。

ここまで考えて思ったことは、やはり今の状況は株式にとって不利なのではないかということである。ジョージ・ソロス氏などは米国株を買い増しているようだが、どうなるだろうか。