さて、今シーズンもまた機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fの時期がやってきた。
ソロス氏の米国株買い
まずはヘッジファンドの始祖とも言えるジョージ・ソロス氏が保有し、ドーン・フィッツパトリック女史が運用するソロス氏のファミリーオフィス、Soros Fund Managementのポートフォリオ解説から始めよう。
9月末時点でのポートフォリオが明らかになった前回の開示では、ソロス氏はAmazon.comなどのハイテク株や製薬株に投資し、またNasdaqの上昇に賭けるコールオプションも買っていたことが明らかになっていた。
だがポートフォリオの総額自体はそれほど増やしてはいなかった。しかし今回の12月末のポジション開示では、ソロス氏はポジションの規模を大幅に増やしている。
Form 13Fに報告されているSoros Fund Managementのポジションの総額は、12月末時点で73億ドルとなり、9月末時点の59億ドルから大きく増額された。
ソロス氏は米国株を買っている。そして最近の株価の反発を見れば、それは成功しているように見える。S&P 500のチャートは次のようになっている。
買収前の製薬株の買い
個々のポジションはどうなっているだろうか。まず今回の最大ポジションは製薬会社のHorizon Therapeuticsで、ポジションの規模は3.3億ドルである。株価は次のように推移している。
この会社は12月に同業のAmgenによる買収が発表されており、株価が急激に上がっている。
Form 13Fによればソロス氏はこの会社を9月末から12月末までの間に買ったということになるが、買収後の価格が決まった状態で買っても仕方がないだろうから、恐らくは価格が上に張り付く前に買って利益を上げたのだろう。
一方で前回2番目に大きいポジションだった同じく製薬株のBiohavenは9割方売却されているので、製薬会社の買いを維持するために代わりにHorizonを買ったのか、あるいは買収前の取引もソロス氏の十八番のトレードなので、単に買収狙いのトレードなのかというところである。
Amazon.comを売り、Alphabetを買い
さて、ソロス氏が大きく買っていたハイテク株はどうなっているだろうか。
ソロス氏は(あるいはフィッツパトリック氏は)恐らく高金利で売られていたハイテク株が金利低下で復活することを予想したのだろうが、その結果はどうなっているか。
ポジションについて言えば、前回大きく買われていたAmazon.comは半分以上が売却され、代わりにGoogleの親会社のAlphabetを1.5億ドル購入している。
まずAmazon.comの株価は次のようになっている。
残念ながらAmazon.comの株価は決算が振るっていないこともあって下落トレンドを継続している。
一方で新しく買われたAlphabetはどうかと言えば、次のようになっている。
Amazon.comと大して変わっていない。
残念ながらソロス氏のハイテク株買いは、少なくとも今のところは振るっていないようである。だがまだ分からない。今後半年で金利がどうなるかである。
また、ソロス氏は前回買っていたNasdaq ETFの1.3億ドル分のコールオプションの買い(上昇すれば利益になる取引)を売却し、1.3億ドル分のプットオプションの買い(下落に賭ける取引)に変更している。
それでもハイテク株の買いの方が大きいので上昇に賭けていることには間違いないが、少なくとも12月末のソロス氏は9月末時点ほどハイテク株に強気ではないということだろう。
これまで何度も述べている通り、ハイテク株については金利低下の恩恵と、下がってもまだまだ高い金利水準による利益の減少の悪影響が影響し合う状況になる。
その2つのトレンドが打ち消しあった結果、これまで大きく下がっているハイテク株は結局割安なのか割高なのかについては、以下の記事で簡単に計算しておいたので参考にしてもらいたい。
投資適格債の買い
最後に紹介するソロス氏(フィッツパトリック氏)のポジションは、債券ETFの買いである。
これはForm 13Fを読み解こうとする人間には非常に有難いポジションで、何故ならば債券の価格上昇は金利低下を意味するので、ソロスファンドが金利についてどう考えているかが分かるからである。
しかもそのポジション内容がまた示唆に富んでいる。ソロスファンドは投資適格債(比較的倒産の可能性が低い債券)を買った上で、ハイテク株と同じようにプットオプションの買いを付けている。だがプットオプションの対象は一部がジャンク債ETFとなっている。
どういうことかと言うと、次のようになっている。
- 投資適格債ETF現物: 2.5億ドル
- 投資適格債ETFのプット: 1億ドル
- ジャンク債ETFのプット: 1.5億ドル
これはハイテク株と同じように、一応は債券の上昇(金利の低下)に賭ける一方で、ジャンク債のパフォーマンスは投資適格債ほどにはならないということを想定しているのである。
結論
要するにどういうことか。ソロス氏(フィッツパトリック氏)はそろそろ金利が頭打ちになると考えており、しかもジャンク債のパフォーマンスはより信用の高い債券よりも低いものになると考えている。
アメリカの金利は事実頭打ちになっている。以下は長期金利のチャートである。
さて、ソロスファンドの予想する金利の頭打ちとジャンク債のアンダーパフォーム、それがどういう状況かと言えば、もう言わなくても分かるだろう。景気後退である。
現在ソロスファンドの舵を取っているフィッツパトリック氏は、2022年内の景気後退回避を見事に予想的中させている。
だがその半年後となる今回のポートフォリオを見れば、明らかにフィッツパトリック氏は景気後退を懸念しているか、少なくともそれに備え始めている。
また、もう1つ今回のForm 13Fで大きな事実は、ポジション総額が急増しているということである。
つまりソロスファンドはアメリカの景気の減速とそれによる金利低下、そして株高を予想している。
景気後退を予想しているところまでは債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏と同じだが、彼はまだ株式を買うタイミングではないと言っている。
さてどうなるだろうか。他の著名投資家のForm 13Fも引き続き報じるので楽しみにしてもらいたい。