アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergによるインタビューで、急落を続けているアメリカのインフレ率について語っている。
ソフトランディングは可能か
GDPがそれほど落ち込むことなくインフレ率が下落してきたことで、去年はアメリカ経済に対して厳しい見解を示していたサマーズ氏も、ソフトランディングの可能性を見始めている。
だが一部に見られるような完全な楽観に対して、今回サマーズ氏は次のように釘を差している。
インフレ率は下落したものの、現在のインフレは2年前には想像も出来なかった水準のままだ。
現在アメリカのインフレ率は6.4%である。以下のようにインフレ率は下がってきてはいるものの、まだまだ非常に高い水準にある。
インフレ率はこのまま下がり続けるか
サマーズ氏は、ここまでの下落は簡単だったと言う。事実、筆者や債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏などは、今年半ばまではインフレ率の急落が継続すると予想している。
何故現在インフレ率は急落しているのか。それは原油や農作物などの金融市場で取引されるコモディティの価格が、アメリカの金融引き締めで2022年から下落を続けているからである。
原油価格のチャートは次のようになっている。
2022年6月を最後に下落している。今年の前年同月比のインフレ率は去年の同月の数字からの変化を見るので、今年6月までは比較対象となる前年の数字が高く、インフレ率は下落せざるを得ないのである。
だがそこから先のことについてはどうなるか。6月という境界線についてはサマーズ氏は触れていないが、彼はインフレ率は目標達成に近づけば近づくほど難しくなるとして、次のように言っている。
インフレ率の下落を獲得することはこれからどんどん難しくなってゆくだろう。
アメリカのインフレ率の見通し
何故か。サマーズ氏は次のように説明している。
インフレの中にはこれから反発してくる様々な要素が存在する
卸売市場にその兆候が見られる。中古車の価格はこれからインフレを押し上げる要素になってゆくように見える。ガソリン価格もいくらか反発している。
サマーズ氏は現在のインフレの状況について次のように纏めている。
9ヶ月ほど前まではあらゆるものの価格が上がっており、それが今では逆転している。
だがその状況が今や通常の状態に戻りつつある。そして正常化の後は、それらの価格は今のように常に下がり続けるわけではない。
去年までの急激なインフレの反動によるインフレ率急落が終われば、インフレ率はむしろ上昇するのではないかとサマーズ氏は言っているのである。
またサマーズ氏は次のように、労働市場がいまだに過熱を続けている状況についても触れている。
これらのことは、失業率が低いにもかかわらず求人が埋まらない状況下で起きている。
アメリカでは1年間の金融引き締めにもかかわらず企業は雇用の意欲を失っておらず、失業率はいまだに下がり続けている。
それは賃金のインフレが収まっていないことを意味しており、賃金のインフレが収まらなければ、サービスのインフレも収まらない。
結論
これが2023年のアメリカのインフレの状況である。
だが金融市場はインフレ率急落で金融引き締めが終わると織り込んだ株式市場で株価が多少の反発を見せている。S&P 500のチャートは次のように推移している。
こうした動きに対し、インフレはそう簡単には収まらないと見るサマーズ氏は次のようにコメントしている。
今は熱狂するようなタイミングではないと思う。
なかなか難しい状況になってきたのではないか。もうすぐ1月のCPI(消費者物価指数)が発表される。先ずはそれを見てからである。