世界最大のヘッジファンド: 株式よりも現金の方が魅力的

世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏のCNBCによる今年初のインタビューである。

インフレが世界経済を襲う中、世界最高のヘッジファンドマネージャーの1人が日本政府や金融庁と真逆の投資アドバイスをしているところに注目したい。

ダリオ氏の2023年相場見通し

ダリオ氏は毎年1月に世界経済フォーラム(通称ダボス会議)でインタビューを受けているが、今年はなかったようであり、代わりにリモートではなくCNBCのスタジオに直接訪れてインタビューを受けている。

ダリオ氏は2023年の投資環境をどのように見ているのか。彼はコロナ後の経済と現状のインフレについて次のように解説する。

政府は大量の小切手を人々に送りつけた。中央銀行はその資金源だった。それで経済の需給が不均衡になった。経済に大量の資金が注ぎ込まれ、需要が急増し、サイクルが開始された。

古典的なサイクルだ。経済刺激をする。信用が負債になる。インフレが起こる。金融政策を引き締めなければならなくなる。

これがダリオ氏の現状認識である。

ここで紹介しているような世界最高の金融家が現在の物価高騰を解説するとき、ウクライナだのコストプッシュインフレだのという言葉は絶対に出て来ない。

そういう出鱈目は政治家とマスコミだけが口にし、彼らの言葉を鵜呑みにする人々だけにとって正しい幻想である。彼らは自分の頭で考える人々とは別の宇宙に脳を置いてきている。

だが世界最高のファンドマネージャーであるダリオ氏にとってこの状況はあまりに単純だ。政府が余計な緩和をし、経済の過熱が行き過ぎ、金利を上げなければならなくなり、それで株価が下落する。

これは何度も起こってきたことである。ダリオ氏は次のように数えている。

今の状況は1945年以来13番目のサイクルの途中だ。

経済は何度も繰り返し愚かな政治家と有権者の後始末をしてきたのである。

上昇した実質金利

話をもう少し2023年の投資環境に持っていこう。Fed(連邦準備制度)の利上げによって金利は大きく上がった。Fedは最近FOMC会合でアメリカの政策金利を4.5%まで引き上げた。

だがダリオ氏が重視するのはインフレ率を差し引いた実質の金利である。金利が高くとも、インフレ率も高ければ現金の価値が薄まるので高金利は実質的に打ち消される。

インフレを差し引いた後の実質金利はどれくらいになっているのかということにダリオ氏は注目している。彼は次のように述べている。

われわれは今どういう状況にいるか? 古典的な状況だ。実質金利が比較的高くなった。実質金利は-1.75%から1.75%に上がった。

金利が上がったことは投資家にとって何を意味するのか。ダリオ氏は次のように述べている。

預金金利が上がった。預金金利は比較的高くなった。

ダリオ氏が預金を評価している。これは過去のダリオ氏の発言を知っている人々から見れば興味深いことである。

ダリオ氏はコロナ前まで「現金はゴミ」のフレーズで有名だった。ダリオ氏は過去の自身の発言を次のように振り返っている。

現金はゴミだった。現金の実質金利は-1.5%や-2%だった。酷いリターンだった。

かつてアメリカの金利はゼロであり、しかもインフレ率は2%近くまであったので、預金をしていると実質的に毎年2%を失っていった。日本のインフレ率は現在4%なので、日本でもかなり酷いことが起きている。

しかも政府はインフレ政策によって意図的にそれを引き起こしてきたのである。日本政府はいまだにインフレ政策をやっている。

アメリカでも日本でも同じことだが、何故そうしたかと言えば、インフレが起これば彼らの積み上げた政府債務が実質的に目減りしてゆくからである。敗戦後のドイツが莫大な借金を帳消しにしたのと同じ方法である。

つまりインフレ政策とは国民の預金を目減りさせることによって政府債務を軽減する政策である。当然政府はそれをやりたがるだろう。

聡明な日本国民に言わせれば、こういう素晴らしい政策に有権者が賛成したのは完全に理解できることなのだろう。筆者にはまったく意味不明である。

だがアメリカでは国民がインフレに異を唱え始めたため、インフレ政策を撤回して金利を上げざるを得なくなった。

高金利における株式市場

それで金利が上がった。ダリオ氏は次のように言っている。

現金は今や相対的に魅力的だ。債券よりも魅力的で、実際株式よりも魅力的だ。

現金はゴミだと言い切っていたダリオ氏が、現金は今や株式よりも魅力的だと言う。

何故か? アメリカで40年間株価が上がり続けてきたのは、金利が下がり続けたからである。アメリカの長期金利は次のようになっている。

金利が下がり続けた結果、現金の魅力がどんどんなくなり、相対的に株式の魅力が増え、資金が株式市場に流れていったのである。

だがそれもインフレが起こるまでのから騒ぎである。金利の低下開始から40年が経ち、政府のインフレ政策はコロナ禍において限度を超え、ついに世界的な物価高騰が引き起こされた。

それで金利を上げなければならなくなった。金利低下が株価上昇を何十年も引き起こし続けたならば、これからの数十年は金利上昇が株安を引き起こす時代である。実際、1970年代の物価高騰時代の株式のパフォーマンスは酷いものである。

そしてこれはアメリカだけの話ではない。日本のインフレ率もついに4%に達し、日銀さえも金利を上げなければならない状況に追い込まれている。

何度も言うが金利上昇は株価下落を意味する。皮肉なのは、日本において金利を上げて株価を下落させている張本人が、2021年の株式市場の天井で「貯蓄から投資へ」の掛け声のもと国民に株式を高値づかみさせた日本政府だということである。

彼ら自身が高金利により株式を下落させようとしている。ちなみに日本の利上げはドル円レートも引き下げるので、日本人の保有している米国株も円換算で沈没する。

そしてまさにこのタイミングで、当たり前のことだが、ダリオ氏は株式より現金だと言い始めているわけである。

非常に面白い現象ではないか。ちなみに「貯蓄から投資へ」の掛け声で国民に株式を高値で掴ませた岸田首相は、2022年の保有資産公開によれば、株式を一切保有していない。

これ以上言う必要があるだろうか。はっきり言うがあなたがたは自民党に騙されている。非常に頭の良い日本国民のことだから、あと数十年もあれば騙されていることに気付くのではないか。