現在世界で一番重要な経済指標は恐らくアメリカの雇用統計であり、米国時間2月3日に最新1月のデータが発表された。
アメリカのインフレ
何故いま雇用統計がそれほど重要かと言えば、インフレ率が下がるかどうかがアメリカの金融政策の行方を決め、そしてインフレのうちエネルギー価格と住宅価格は既に下がっているが、サービスの価格が下がるかどうかはその主なコストである賃金のインフレがどうなるかにかかっているからである。
エネルギー価格や住宅価格については以下の記事を参考にしてもらいたい。
残るはサービスのインフレであり、要するに労働市場である。
アメリカの雇用統計
さて、発表された1月の雇用統計では、まず失業率は3.4%となり、12月の3.5%から更に下落した。チャートは次のようになっている。
これはある意味で驚くべきことである。1年に及ぶFed(連邦準備制度)の急激な利上げにもかかわらず、失業者が増えていない。利上げで経済が弱まれば企業が人を雇う勢いも弱まるはずだが、アメリカではGDPもまだ景気後退に至っていない。
しかしインフレ率は着実に下がっている。インフレ率のチャートは次のようになっている。
この状況を受け、アメリカのバイデン大統領は記者会見で誇らしげに次のようにコメントしている。
簡単に言えば、バイデンの経済計画が機能しているということだ。
また、インフレが抑制されているにもかかわらず労働市場が強いことについて次のように言っている。
過去2年間、批評家がわたしの経済計画をこき下ろすのを聞いてきた。
彼らはインフレを抑制するためには雇用を破壊するしかないと主張してきた。今日のデータはこれまでわたしが心の中で確信してきたことを完全に明確にしてくれた。これらの批評家や皮肉家は間違っている。
インフレ率の下落と労働市場の好調
さてどうだろうか。筆者もアメリカ経済の状況は、高金利という状況下においてかなり良いものだと考えている。去年経済に弱気だったラリー・サマーズ氏の見解も緩んできたくらいである。
ただ残念ながらバイデン氏の経済指標の読み方は完全に間違っている。何故ならば、雇用統計の数字と比べなければならないのは、インフレ全体の数字ではなくサービスのインフレ率だからである。
インフレ全体の数字を見れば、上記のチャートから分かるように「インフレ率が急落しているにもかかわらず労働市場は好調である」という矛盾した状況に見える。
だが失業率とサービス(エネルギー関連除く)のインフレ率を以下のように並べてみると、当たり前の状況しか見えて来ない。
サービスのインフレは止まっておらず、企業は競って人を雇おうとしており、したがって失業率は下がっている。何の矛盾もない。
結論
ということで、ここでは去年から指摘し続けている状況が続いている。インフレのうちエネルギーと住宅については下落しているが、金融引き締めの影響が及びにくいサービスのインフレは根強いということである。
そして何の経済学の知識もないバイデン氏には申し訳ないが、サービスのインフレと雇用統計はほとんど同じデータと言って良いので、片方だけ収まって片方だけ過熱する展開は有り得ない。
それでもインフレ全体で言えば、エネルギーと住宅価格の下落が先導して、インフレ率は年半ばまで下落が続くだろう。
しかしその効果もあと半年足らずで切れる。その後はエネルギーと住宅以外のインフレがどれだけ残るのかということが問題となる。2%なのか、4%なのか、6%なのか、それが問題である。
それについて考えるには毎月の雇用統計を1つ1つ見てゆくほかない。そして雇用統計が強ければサービスのインフレは根強く、それを退治するためには経済を殺してしまわなければならなくなる。
ソフトランディングは可能だろうか。今後半年は金利低下に賭けつつも、その後のシナリオについてもそろそろ考え始めたい。