DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がUBSによるインタビューで2023年の債券投資戦略について語っているので紹介したい。
2023年は債券投資の年
2023年は債券投資の年である。2022年のFed(連邦準備制度)の利上げにより、アメリカの金利は高い水準にある。
ガンドラック氏はFedの引き締めが行き過ぎていると考えており、2023年のアメリカ経済はFedなどの想定よりも冷え込むと予想している。
ガンドラック氏は次のように述べている。
Fedが高金利を長く維持し過ぎるならば、経済が弱まり、30年物国債の金利は4%近辺から2.5%まで下がることも完全に有り得る。
結果、既に債券市場に織り込まれている通り、Fedは利上げから利下げに転換することになり、債券市場全体の金利も下がってゆく。
債券の金利低下は価格上昇を意味するので、債券投資家には高金利と価格上昇の両方を享受するチャンスがあるというわけである。
ガンドラック氏が好む債券
しかし債券と言っても色々ある。国や企業の債務もあれば個人の債務もあり、証券化されていれば何でも買うことができる。
ガンドラック氏は今買っている債券について次のように述べている。
商用不動産ローン、消費者ローンなどを買っている。
これらの債券は金利上昇のために価格が大きく下がっている。
ガンドラック氏は国債よりもリスクの高い債務を買いに行っているようだ。また、期間については次のように述べている。
3年から5年ほどの期間の債券を好んでいる。そしてそれよりも長い期間の国債を同時に買う。
何故3年から5年の期間にこだわるのか。ガンドラック氏は次のように説明する。
比較的短期の債券は長らくなかったほどクレジットスプレッドが拡大しており、しかもそれは近年の歴史的水準から考えて十分高い国債の金利の上に成り立っている。
クレジットスプレッドとは、債券の金利の内、一般に無リスクと考えられる国債などの金利よりも高くなっている部分のことである。債券の金利は以下の式で表される。
- 債券の金利 = 無リスク金利 + クレジットスプレッド
ガンドラック氏は、2022年の利上げによって無リスク金利がそもそも高い上にクレジットスプレッドも高くなっていることを指摘している。
更に、ガンドラック氏は比較的期間の短い債券を買うことについて次のように説明している。
比較的早くお金が返ってくることで、デフォルトのリスクを減らすことができる。
つまり、国債よりもリスクの高い短期債を買うことで、出来る限りリスクを減らして高金利を取りに行こうという考えである。
債券のリスク
ちなみに筆者は2年物国債を買っている。国債という点で言っても、短期債という点で言っても、債券の中では一番クレジットリスクの低いものである。それ自体では価格がほとんど動かないので当然レバレッジを掛けている。
ガンドラック氏は景気後退を予想しながら、デフォルトリスクのある債券を買っている。
何故なのか。ガンドラック氏は次のように説明する。
証券化された消費者ローンは今やかなり巨大な市場になったが、わたしの意見では社債よりもリスクがかなり低く、金利はより高い。
住宅ローン債券は2008年の金融危機では悲惨な状況になった。
だが住宅ローンは今や債券市場全体の中で一番安全な領域だ。
住宅価格はアメリカで3回行われた大規模な現金給付が不動産市場に流れ込んで以来バブルになり、その後Fedの金融引き締めによって価格の下落が始まっている。
住宅市場における価格の下落は当分続くだろう。そのような状況の中で住宅ローン債券が安全だとはどういうことだろうか? ガンドラック氏は次のように説明している。
何故ならば、住宅価格はこの3年で40%上がったからだ。住宅価格は下がる可能性があるし、実際そうなるだろうが、2年前にローンを組んで家を買った買い手にはまだまだ大きな余裕があり、デフォルトすることはないだろう。
資金の借り手の状況をしっかりと考えながら銘柄選択をする辺りが債券の専門家としての本領だろう。
ガンドラック氏はこれらの債券を高く評価しているようで、次のように述べている。
リスクは国債とほとんど同じか、少し高いくらいなのに、これらの債券の金利は8%だ。
また、長期国債の買いと組み合わせている理由は、デフォルトが増えるような過酷な景気後退になったとしても長期国債の値上がりが稼いでくれるからということである。
結論
いずれにしても、2023年は債券投資の年である。以下の記事に書いたが、CPI(消費者物価指数)の状況を考えれば、インフレ率は少なくとも今年の半ばまではこのまま下がり続けるだろう。
よって金利も下がり続け、債券の価格は上がる。それがガンドラック氏や筆者、そして去年亡くなったもう1人の債券投資家スコット・マイナード氏の予想である。
どういう債券を買うかは投資家次第である。ただ、債券のプロフェッショナルであるガンドラック氏の銘柄選択を考えることは、特に債券投資に慣れていない日本の投資家にとって参考になるだろう。