世界中が日銀に注目している。何故ならば、日銀のイールドカーブコントロールが破綻しかけているからである。
DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏が自社のRound Tableで日本の金融政策を皮肉っているので紹介したい。
日銀のインフレ政策と日本のインフレ
2013年のアベノミクス以来、日本銀行は大規模な量的緩和を行なってきた。
日銀の量的緩和は途中でイールドカーブコントロールに進化した。イールドカーブコントロールとは、長期金利に上限を設け、金利がその上限を超えないように長期国債を買い入れるもので、イールドカーブコントロールがある限り政策金利どころか長期金利についても永遠の低金利が実現されたかのように見えた。
だが40年続いた米国株上昇相場が終わるように、何事も永遠には続かない。
何故ならば、アメリカの低金利がインフレで終わったように、日本の低金利もインフレで終わるからである。
日本のインフレ率は去年の半ばから上昇を始め、最新の数字では4%に達している。
その原因の多くは日銀のインフレ政策による円安経由での輸入物価高である。(ウクライナがどうこうと未だに言っている人に言うべきことはもはやない。)
去年の為替相場では日銀の緩和政策のお陰でドルやユーロどころか東南アジアなどの通貨に比べても円の価値は下がった。日銀が日本円を刷りまくっているからである。
インフレ下でインフレを目指す日銀の愉快な緩和政策がガソリンや食料品などの価格を上げ始めたため、インフレ政策が実はインフレを目指すものだったというアベノミクスの頃からの自明の事実に日本国民がついに気付いてしまった。
あまりに素早い頭の回転である。それで日銀はイールドカーブコントロールを修正し、長期金利の上限を0.25%から0.5%に上げた。当然ながら長期金利は上がった。2013年以来の低金利の終わりである。
日銀の方向修正
ドル円はアメリカ側の状況もあり下がり始めている。ドル円の下落予想は2023年の筆者のメインのトレードである。
輸入物価高だけが問題ならば、ドル円のレートが下がればインフレは収束する。
だが同じようなことを2021年にアメリカの中央銀行も言っていたではないか。
アメリカでもインフレの起源は2020年に行われた莫大な現金給付がエネルギーや農作物などコモディティ市場に流れ込んだことが原因の局所的なインフレだった。
伝播するインフレ
だがインフレは伝播する。エネルギー高が結局はアメリカのサービス業などのインフレに繋がったように、輸入物価高が長く続けばそれは日本のサービス業などのインフレに繋がってゆく。
そして日本のCPI(消費者物価指数)の内訳を見てみれば、それがもう始まっていることが分かる。今年の日本のインフレ率はドル円の下落で一時的には落ち着くかもしれないが、輸入物価高が引いた後にはサービス業などのインフレが明らかになる。
そうなれば日本もアメリカのようにインフレ抑制のためにどんどん金利を上げなければならなくなるだろう。
金利を上げれば、もう何十年も低金利に依存していた日本経済は不況に陥るだろう。上げなければどうなるか? イールドカーブコントロールによる金利上限により日銀は無尽蔵に国債を買い入れなければならなくなる。
Round Tableでガンドラック氏らが指摘しているのは、日銀が市場に存在する国債の半分以上を既に買い入れてしまっていることだ。
そして今後のインフレ指標でインフレの悪化が明らかになれば、国債の売り圧力が増え、日銀の買い入れ額が爆発的に増加する。これも既に起こっている。
だからこのまま行けば、金利が爆発的に上昇するか、日銀の国債買い入れが国債をすべて買い入れてしまうことで終了するか、どちらかである。
結論
どちらにしても緩和の終了には違いない。国債をすべて買ってしまえばもう緩和は出来ない。社債を買い入れることも出来るが、市場規模が国債よりも小さいため、すぐに終わってしまうだろう。
そもそも市場に国債が存在しない先進国など前代未聞であり、どういう事態が起きるのかもう少し精査してみる必要がある。単に緩和の終了では済まないかもしれない。
最初から分かっていたことだが、10年続いたアベノミクスの結末は、金利高騰か物価高騰である。そもそも物価高はアベノミクスの目的である。何故そうだったのかは、以下の記事で説明している。
日銀の黒田氏は「目標がまだ達成できていないことが残念だ」などと供述しているが、もはや意味が分からない。日本経済は彼のお陰で十分に詰んでいる。
だがまだ詰んでいない。インフレ率はまだ4%で、国債もまだ暴落していない。日銀の緩和もまだ破綻していない。
インフレ政策は少なくとも8年間インフレを引き起こさなかった。そして9年目でインフレになった。結局は当たり前の帰結に帰ってゆく。
ガンドラック氏は次のように言う。
日銀は賢明だ。80階の窓から飛び降りて、70階分落下したところで「今のところは良い状態だ」と言っているようなものだ。