アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏の今年始めてのインタビューである。Bloombergでサマーズ氏は雇用統計の数字にコメントしているのだが、タカ派だったサマーズ氏の見解に変化が見られる。
雇用統計は良かった
最近発表された12月分の雇用統計については前回の記事で報じた通りで、強弱入り混じった内容だったが、金融市場はインフレ減速と受け取り、金利低下で反応した。
雇用統計の後にはいつもサマーズ氏のインタビューが行われるが、今回サマーズ氏は珍しくこのデータを手放しで褒めている。
いい数字だった。経済が力強い一方で、インフレ圧力が減退していることが分かる。
これがどういうことかと言えば、恐らく平均時給の上昇に減速が見られた一方で、失業率が低下したことを指していると思われる。詳細は上記の記事を参考にしてもらいたい。
実際これは良い組み合わせである。インフレは収まりつつあるが、失業は起きていないということである。
サマーズ氏は用心深い学者らしく、数字の改善が別の要因である可能性も指摘している。彼は次のように言う。
ただ、人々は賃金の数字に喜んだようだが、わたしの直感はひと月の数字の上下に一喜一憂しない。
例えば、10代の若者が多く働き始めたような場合には、平均時給は下がることになる。
だが、それでもこれは良い数字だと思う。
アメリカ経済の景気後退
アメリカ経済全体はどうなるか。サマーズ氏のこれまでの立場は、インフレを打倒するほどの金融引き締め下では景気後退は不可避だというものだった。これはマクロ経済学の通説とも一致している。
だが今回のサマーズ氏は少し揺らいでいるように見える。彼は次のように述べている。
この冬や春に景気後退に陥る可能性は、6ヶ月前に思っていたよりも低くなっていると考えている。
だが経済について言えば、ソフトランディングが経験に反した希望的観測であるという予想がメインシナリオであることには変わりがない。
一応これまでの主張を繰り返すことも忘れてはいない。だがここの読者なら感じ取れるのではないかと思うのだが、どうもサマーズ氏がアメリカ経済に対して楽観に傾いているように聞こえる。実体経済が強いのか弱いのか、これほどはっきりしないサマーズ氏はあまり見たことがないだろう。
サマーズ氏の利上げ予想
最後は金融政策の話である。結局利上げは必要なのか、それともインフレは既に打倒されているのか。
サマーズ氏は次のように述べている。
Fedがますます伝統的な中央銀行のようになってきていることに満足している。彼らが引き締め的な政策にコミットし、強くインフレ打倒に力を入れることにおいて市場予想を上回っているのを見るのは興味深い。
インフレは根強いと主張してきたサマーズ氏に対して、金融市場は一貫してデフレを予想してきた。アメリカのインフレ率が9%にも及んでいた時でさえ、長期金利はその半分にも及ばず、今や政策金利を下回って3.6%まで下がっている。
債券市場のメッセージはこうだ。「金融引き締めは行き過ぎており、インフレ率は急落する」。債券市場のメッセージを重視した2人の債券の専門家、ジェフリー・ガンドラック氏とスコット・マイナード氏は、2022年終盤のインフレ率急落を見事に当ててみせた。
引き続き彼らの予想はインフレ減速と低金利である。
一方でFedは、現在4.25%である政策金利をここから更に5%以上に上げると言っている。
サマーズ氏はどちらに同意するのか? サマーズ氏はこう言っている。
今後を予想するにあたって、わたしの立場は市場よりもFedの方に近い。
結論
さてインフレは、利上げは、どうなるだろうか。筆者の予想は、ガンドラック氏とマイナード氏のものに近い。
CPI(消費者物価指数)のデータを見ればインフレ率減速は現実であり、エネルギー資源や農作物などのコモディティと住宅価格、そして今や賃金の上昇まで減速しているのだから、どう考えてもインフレ率が上がる要素がない。
読者はどう考えるだろうか。去年末に亡くなったマイナード氏の最後の予想とサマーズ氏の議論を比べてみてもらいたい。