暴落した米国ハイテク株は割安と言えるか

2022年に始まったインフレ相場も半ばに差し掛かっている。2022年はインフレ率高騰と金利上昇の年、そして2023年はインフレ率急落と不況の年である。

そこで今回考えたいのは、2022年に半値ほどに暴落したハイテク株は割安と言えるのかということである。

ハイテク株の現状

2022年、ハイテク株はインフレによる金利上昇で暴落した。グロース株は将来の成長を織り込む銘柄であるので、将来のキャッシュの実質的価値が減るインフレにおいては他の株よりも大きく影響を受ける。

この性質を利用してジョージ・ソロス氏は2022年の株価急落前にハイテク株を空売りして利益を上げた。

その後もハイテク株は下落したままである。例えばコロナ直後に巣ごもり銘柄として買われた動画配信のNetflixの株価は次のように推移している。

何と丁度コロナ後の最安値の水準まで下落している。天井から考えても半分以下の暴落である。

これは好機だろうか? Netflixの長期的な見通しはどうだろうか。

他の企業も考えてみたい。動画配信を見るユーザの好みは気まぐれに変わってしまうかもしれないが、ネットで物を買う場合のAmazon.comの優位性は、それほど変わるものではないのではないか。

Amazon.comの株価は次のように推移している。

こちらも半値以上の下落で、ちょうどコロナ直後の最安値の水準である。

もう1つ、Googleの親会社であるAlphabetの株価を見てみよう。

半値落ちは免れており、コロナ前の高値を今のところ超えたままである。

Alphabetは割安と言えるか

実際、Alphabetはハイテク株の中で決算が比較的良かった。だから今回はこのAlphabetを例に取って、決算内容から考えてこの水準は安いと言えるかを考えてみたい。

まず、最新の決算である2022年第3四半期の数字が、その1年前からどう推移したかを上げてみよう。

  • 売上高: 651億ドル -> 691億ドル (+6%)
  • 純利益: 189億ドル -> 139億ドル (-26%)

これは四半期(3ヶ月)の数字で、比較対象となっている2021年第2四半期は金融引き締めの前なので、高金利の影響が決算にどう影響したかが見て取れる。

売上が上がっているにもかかわらず純利益が下がっているのは、要するにインフレで費用がかさんでいるということである。

売上は今のところ上昇を維持している。利益は下がっているが、2022年の9月までの状況が赤字となっているAmazon.comなどより状況は良いと言える。

単純に比べれば、利益が26%の下落で株価は40%程度の下落ということになり、これをどう見るかである。

純利益と株価収益率

ここでGuggenheim Partnersのスコット・マイナード氏の株価予想を持ち出そう。まず一般論として、株価は次の計算式で導かれる。

  • 株価 = 1株当たり利益 x 株価収益率

だから、1株当たり利益と株価収益率が予想できれば株価の予想ができる。

1株当たり利益に関しては企業によっても様々だが、26%下落しているAlphabetの現状を考えれば、2023年には恐らく30%から40%程度の下落にはなるのではないか。四半期ごとの数字は一時的にマイナスになるかもしれないが、より長期で見ればそのくらいの下げ幅になるとしよう。

一方でマイナード氏が株価収益率に関して次のように言っていたことを思い出したい。

景気後退時における平均的な株価収益率を考えよう。例えば15倍だ。

株価収益率は投資家のリスク選好が落ち込む時期には下がるので、1株当たり利益が変わらなくても株価は落ちる。

マイナード氏はS&P 500を対象に考えていたが、金融引き締め前のS&P 500の株価収益率は23程度だったので、それが15になれば35%の下落になる。

ここで最初の式を思い出したい。

  • 株価 = 1株当たり利益 x 株価収益率

1株当たり利益が例えば30%、株価収益率が35%下落すれば、株価はどうなるだろうか?

答えは55%の下落である。現在のAlphabetの株価はまだ40%程度しか下落していないので、この計算では割高だということになる。

結論

あくまでこうした理論値は目安でしかない。この計算では割高であるとしても、既に半値近くまで下落しているハイテク株をここから空売りすることが美味しいトレードだとは筆者は考えていない。

だが一方で、ハイテク株はこれほど下がってもまだ割安とは言えないことも事実だろう。

前回取り上げたジム・ロジャーズ氏のインタビューでは、彼はハイテク株はまだ買えるほど安くないと答えた上で、次のように言っている。

1999年から2000年にかけて、Amazon.comのような株は80%から90%下落した。Amazon.comはいまでも存在している。そのまま下がったままにはならなかった。

だが良い企業、人気の企業でさえ、弱気相場では大きく下落する。60%、70%、80%、大きな弱気相場ではあらゆるものが大きく下がる。

いくつもの下げ相場を経験してきたロジャーズ氏らしい意見である。

底値はいずれやってくる。タイミング次第では、優良ハイテク株は十分底値買いの対象になると筆者は考えている。

だが筆者の計算によれば、今はまだそのタイミングは来ていないように見える。引き続き底値買い対象を監視してゆきたい。