2023年はコモディティ底値買いの年: 原油、天然ガス、農作物、金相場の推移予想

前回の記事では2023年の著名投資家らの金融市場予想について纏めた。

ただ、その中で金属やエネルギー資源、農作物などのコモディティ銘柄については詳しくは触れていなかったので、今回はコモディティについて書きたい。

2022年のコモディティ市場

2022年は金属やエネルギー資源、農作物などのコモディティ市場にとって激動の年だった。

コロナ後に行われた未曾有の現金給付が原因となった世界的な物価高騰を真っ先に織り込んだのはコモディティ市場であり、その上昇相場は2020年から始まっている。

コモディティ市場におけるエネルギー資源や農作物の高騰が2年かけて世界中の物価に波及したわけである。

そのコモディティの上昇相場は2022年2月末に始まったロシアのウクライナ侵攻で最後の火花を上げた。筆者はロシアとウクライナが主な輸出国となっている小麦を保有していたので大いに儲かった。

だがそれがコモディティ高騰の最後だった。コロナ後の緩和で上がっていたコモディティ価格は、Fed(連邦準備制度)がインフレ対策で金融引き締めに転じると下落していった。

しかし今やアメリカのインフレ率は下落しており、金融引き締めで下落しているコモディティも、アメリカが緩和に転じれば底を打つかもしれない。そういう状況で2023年のコモディティ相場を考えてゆくことになる。

原油と天然ガス

まずは世界経済にとってもっとも重要な原油相場から考えよう。

チャートを見て明らかなように、原油相場はコロナ後の緩和で上昇してきた。

コモディティも銘柄によって動きは様々だが、原油は金融政策と実体経済の両方に影響を受けやすい銘柄である。

アメリカは金融引き締めを行なっており、2023年には世界的な景気後退が予想されている今の状況は、原油価格にとって不利だと言える。このことについては筆者は原油が下落に転じる前から指摘してきた。

金融政策は2023年内に緩和に転換するだろうというのが、筆者の予想である。

一方で景気後退はまだ始まってさえいない。コロナ後に莫大な現金給付で経済を無理矢理バブルにしたツケがすべて出てくるのだから、それはまだ市場に織り込まれていない。

その点はこれからの原油市場には不利である。だがクレディ・スイスのゾルタン・ポジャール氏は、原油に有利な要素を指摘する。アメリカの原油備蓄放出の終了と中国のゼロコロナ政策解除である。

インフレ(つまり物不足)を解消するためにアメリカは備蓄していた原油を放出し続けてきた。また、中国経済がコロナ対策のロックダウンで停滞し続けていたことは、原油の消費量を減らしていた。

この両方が2023年にはなくなる。供給は減り、需要は増えることになる。その影響は原油価格に対して上昇方向に働く。

2023年の動向はどうなるか? 2023年前半に支配的になるトレンドは、景気後退懸念だろう。現在の原油価格下落は続くと筆者は考えている。

だが原油価格の底値が年末までに来る可能性は高い。ジェフリー・ガンドラック氏によれば、2023年半ばにはアメリカのインフレ率はかなり下がってくるという。

その頃にはFedの引き締め姿勢もかなり変わっているだろう。

また、景気後退懸念も同じくらいの時期にはかなりの程度現実化しているはずである。それはコモディティ市場全体にとってネガティブな要素だが、相場とは悪いニュースが出切ったところが底である。

Fedが早々と緩和転換すれば、2023年の半ばにもコモディティ市場の底が来る可能性がある。もしそうでなくとも、市場が一番悲観的になったところがあれば、もうそれ以上は下がることができないということである。

2023年の大不況の底は、仮に明らかな緩和転換がなかったとしても、恐らく年内に来るのではないか。そうすればどちらにしてもコモディティ市場は底を打つことになる。

その頃には原油市場にもポジャール氏が指摘しているような需給要因が影響を及ぼし始めることになるだろう。また、需給という意味で他にも好条件なのが、アメリカの天然ガスである。アメリカの天然ガス価格は次のように推移している。

ウクライナ情勢でロシアから輸入できなくなったヨーロッパで大規模な不足が生じたため、天然ガスは2022年に大相場を演じた。ちなみにドイツ人は風呂に入らないことで対応した。

だが天然ガス価格は現在かなりのところまで下がってきている。

上記はアメリカの天然ガス価格だが、忘れてはいけないのがヨーロッパがロシアから輸入するのを止めた分のエネルギー資源を供給しているのがアメリカだということである。それはアメリカのGDPにも表れている。

だが原油とは違って天然ガスは簡単には輸送できない。パイプラインか、冷却して液化して運ぶLNG船が必要であり、LNG船の場合は船だけでなく受け入れ施設も必要となる。アメリカがヨーロッパ(や日本など)に十分に天然ガスを売ることができるようになるのは、これからである。

だからアメリカの天然ガス需要が本格化するのは今後10年のトレンドとなるはずだ。だが天然ガス価格はこのままではそうした背景を無視して景気後退懸念で下がり続ける可能性がある。

そう考えれば、2023年にコモディティ相場の底が来た時、アメリカの天然ガスは原油よりも狙い目となっている可能性が高い。

農作物

以上、エネルギー相場を例にコモディティ市場全体の大体の推移予想について語ったが、農作物もある程度同じような推移になるだろう。

例えばとうもろこしはバイオエタノールの原料となるため、原油相場にある程度連動する。原油よりも好調に見えるのは、原油ほどは景気後退懸念に影響されないためだろう。

一方で原油に連動しない農作物としては、ウクライナ情勢で話題になった小麦がある。

小麦はウクライナ情勢での上げ幅が大きかったので下がっているように見えるが、それを差し引けばむしろ順調に上昇トレンドを継続している。

景気動向に需給が左右されない銘柄ほど金融政策の影響が大きくなる。その最たるものは次に紹介するゴールドだろう。

ゴールド

ゴールドはコモディティの中でも特に金融政策に左右される。だからコロナ後に真っ先に上がった一方で、先に上がりきってしまった後のパフォーマンスは悪かった。

だが2022年終盤のインフレ減速に一番機敏に反応しているのも金相場である。筆者は2ヶ月ほどのトレードでこの反発相場を取っておいた。

その後どうなるか。ゴールドといえどもコモディティであるため、景気後退懸念(厳密にはそれに伴うデフレ)は悪材料となる。

だがゴールドはもう2年も横ばいになっていることも考えれば、2023年内もそれほど下がらないが、下がるとしても2022年の底値近辺までではないか。

結論

ということで、コモディティ全体としては2023年にアメリカが緩和転換するか、あるいは予想されている不況がすべて現実化したところが底値だろう。

だから2023年はコモディティ市場の底値買いの年になるだろう。一番利幅が大きそうなのは、不況の影響を一身に受けてこれから下がりそうなエネルギー資源、特にアメリカの天然ガスである。暴落したところを買いたいものである。

一方でゴールドはコモディティの中でも一番底堅く、底打ちも一番早いのではないか。農作物はその間の値動きになる可能性が高い。

実際にはコモディティ市場が下落した後に一番安いものを買いに行くことになるが、現状では筆者はこのように考えている。他の投資家の意見も参考にしながら、2023年のコモディティ市場をトレードしてもらいたい。