アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏が世界経済の見通しと新興国市場への影響について語っている。
前回のジェフリー・ガンドラック氏の新興国株式の見通しと比べながら読んでもらいたい。
大きく売られた新興国市場
2022年は新興国市場にとって厳しい年となった。アメリカの利上げでドルは上がったが、逆に言えば新興国の通貨は下がったということであり、それに加えて株価も世界的に下がったため、新興国株式は二重苦を味わっていた。
だがそれもアメリカのインフレ率が減速すれば変わることになる。インフレが止まれば利上げも止まる。10月のインフレ率の減速傾向がその後も続くかどうかが投資家にとって焦点となっている。
ガンドラック氏はドル高と金利高が止まると予想し、新興国株式の反転を予想した。だが彼は特定の国には言及しなかった。
中国経済はよみがえるか
一方でサマーズ氏は中国に触れている。中国では長年の不動産バブルが崩壊したことに加え、ゼロコロナ政策によりいまだにロックダウンを行なっており、国民の不満がついに爆発して各地でデモが起こった。
サマーズ氏はこれを中国経済にとって良い兆候だと見ている。彼は次のように述べている。
中国経済は少し強くなるかもしれない。デモを受けてゼロコロナ政策を緩和する可能性があるからだ。そうすれば中国経済は加速するだろう。
奇しくもタイミングがドル高・金利高の減速と重なったこともあり、中国市場は通貨高と株高を享受している。上海総合指数は上昇に転じている。
また、サマーズ氏は中国経済の需要が戻ることは、農作物やエネルギー資源などのコモディティ価格にとってもプラスだと述べている。
中国経済が加速すれば、コモディティ価格には追い風となる。それは世界経済の一部にとっては助けになる。
ちなみにコモディティ市場では金価格が上昇している。
一方でとうもろこしなど農作物の価格は下がっている。
景気後退を懸念しているからである。
世界的な景気後退と新興国市場
確かにアメリカの利上げは和らぎ始めており、中国のゼロコロナ政策は多少緩和されるのかもしれない。
だが利上げが和らぐのは経済が減速し始めたからである。そして中国の問題はゼロコロナ政策だけではない。
世界経済の見通しはどうだろうか? サマーズ氏はこう語っている。
世界的な景気後退になる可能性は十分高い。中国だけが原因ではない。中国は大きな問題を抱えており、アメリカは景気後退する可能性が高く、ヨーロッパの状況はアメリカよりも悪い。
これら3つの地域は世界経済の大きな柱であり、それらがすべて減速に傾いているなら、他の国も同じように減速することは避けられない。
ここで問題が生じる。利上げが止まれば景気後退に陥っても株式にはプラスなのだろうか?
ガンドラック氏はそれでも新興国株式は買いだとしている。
一方でサマーズ氏は次のように述べている。
しかも今回は高金利下の景気後退になる。これまでのような低金利下での景気後退ではない。それは新興国市場にとっては問題となる。
人々が忘れがちなのは、利上げが止まっても金利は高い水準に留まるということである。
結論
その状況で株式は生きてゆけるのだろうか。筆者は個人的には、ここからの新興国市場の反発を取るならば、株式ではなく通貨だけにしておくのが良いのではないかと思っている。
しかしこれまで大きく下落したものほどこういう状況では上昇幅も大きい。中国のゼロコロナ緩和とドル安が両方良いタイミングで来たことは短期的には中国市場には大きな追い風になる。
少なくともガンドラック氏とサマーズ氏では見ているタイムフレームが違うということは言える。ガンドラック氏の方が短期の予想だろう。短期的には新興国株式には良い条件が揃っている。
一方で、新興国市場と言ってもどの国を選ぶのかという問題はある。以下の記事ではレイ・ダリオ氏が、インフレと戦争の起こっている今の世界市場でどの国を選ぶべきかについて解説してくれているので、そちらも参考にしてもらいたい。