著名投資家のジム・ロジャーズ氏がRTのインタビュー(原文英語)で、2016年の世界経済の動向について語っている。
ロジャーズ氏によれば、中央銀行の量的緩和が支えている金融バブルにはいずれ終わりが訪れ、そのバブルが破裂するときには2008年のサブプライムローン危機よりも酷い事態になるだろうと予言している。その理由は世界中で積み上がった負債とマネタリーベースである。
ジム・ロジャーズ氏の長期相場見通し
ロジャーズ氏は次のように議論を始める。
2008年の問題は、膨大な負債が積み上がっていたということだ。しかし今では当時以上の負債が世界中で積み上がっている。だから次に何か問題が起きたときには、2008年よりもより酷い状態になるだろう。
アメリカ経済は今どうなっているか? アメリカ政府の発表するGDPデータによれば、先日報じた通り、緩やかな減速と言ったところである。しかし中身にバブル的傾向が見られることは指摘しておいた通りである。
これに対し、聞き手の記者は、アメリカ経済は今のところ上手く行っていて、失業率も下がっていると反論する。しかしロジャーズ氏はこれを一笑に付し、アメリカ政府の発表する統計は信用できないと言う。
そう見えるのはアメリカ政府の発表する統計を信じているからだ。ソビエト連邦さえ統計を持っていた。そして数字はかなり良かった。アメリカ政府はあまりに多 くの正確でない数値を発表している。雇用統計はどうだ? この数字はあまりに多くの失業者を、彼らはもう職を探していないと定義することで除外している。
また、アメリカ経済の好調不調には偏りがあるとロジャーズ氏は指摘する。
確かに、アメリカ経済の一部は非常に上手くいっている。あなたがウォール街か何処かで働いていれば、政府が紙幣を大量に刷り、負債を大量に積み上げているの だから、上手く行っているだろう。だがテキサスに行けば、経済は上手く行っていないのは明らかだ。アメリカ経済の大部分は上手く行っていないのだ。
テキサスとはつまり、エネルギー関連企業のことである。原油価格は反発しているが、個人的には反発は長くは続かないと予想している。
株式指数は信用できない
また、ロジャーズ氏は一部の大企業によって押し上げられた株式指数を見るのは誤りで、本当は米国株の大部分は下落していると主張する。
ここ18ヶ月の間、米国株のほとんどは下落している。株価平均はただの詐欺だ。少数の大企業は確かに上手く行っていて、それは政府が紙幣を刷り、負債を増やしているからだ。しかし実際には、ほとんどの米国株は下がっているのだ。
ちなみにS&P 500の長期チャートは以下のようになっている。
しかし実際には下落している株価も、アメリカ経済の不調を示すものだとロジャーズ氏は主張する。
兆候は既にそこら中にある。ニュースには取り上げられないからこれらの兆候は見えないが、アメリカ経済は既に部分的にリセッション入りしており、株価は下がっている。もう始まっているのだ。
中央銀行を廃止すべき
危機はもう始まっているとするロジャーズ氏は、その責任が中央銀行の金融緩和と政府の財政赤字にあると非難する。記者にこうした政府の介入が無いほうが良いと思うかと聞かれ、次のように答えている。
政府の介入がなければどれほど良いことだろう。そうすれば2008年から問題を引きずることもなかっただろう。しかし現状では、アメリカ国民の生活は2008年か、もしかしたら2005年よりも良くなってはいない。
そうしてロジャーズ氏は、量的緩和バブルを引き起こした中央銀行を廃止すべきだと主張する。
何かやるべきことがあるとすれば、先ずはFed(連邦準備制度)を廃止すべきなのだ。アメリカは歴史上、3つの中央銀行を経験した。最初の2つは既に消え去った。今の中央銀行は人災だ。大量の紙幣を印刷している。だから中央銀行は廃止すべきなのだが、それは現実的ではないから、少なくとも彼らに紙幣印刷を 止めさせるべきだ。
中央銀行なしの経済というのは極端な考えだと記者に指摘され、ロジャーズ氏は自分が非難するのは現行の中央銀行であると言う。
わたしは現在のFedを廃止すべきだと言っているのだ。中央銀行なしの世界にも問題はある。ただ現行のFedは人々の生活を酷いものにする。次に金融危機が起こった時には、事態は本当に酷いことになるだろう。何が起こるかと言えば、倒産、通貨危機、株式市場の大暴落、そしてそうなれば金利は高騰するだろう。 これは面白い話ではない。
量的緩和バブルはいずれ崩壊する。これは世界中の優れたヘッジファンドマネージャーにとっての共通見解だろう。しかし問題は、いつ、どのように崩壊するかという点である。
わたしは量的緩和が始まった当初、国債市場の崩壊から金利高騰、そして株式市場の崩壊へと繋がるというシナリオを想定していたが、以下の記事で指摘した通り、どうやら少なくとも日銀は市場に出回っている国債をすべて買ってしまいそうである。
何故ならば、今の日本政府の財政では、国債暴落でなくとも金利が少し上がっただけで財政が崩壊しかねないからである。だから日銀の量的緩和に出口はなく、国債はすべて買われてしまう可能性がある。
では量的緩和バブルはどうなるか? 中央銀行が国債をすべて買うのであれば、国債市場でバブルは崩壊しない。では社債市場はどうか? 株式市場はどうか? 少なくとも株式市場の暴落は、日銀が日本株をすべて買うのでなければ不可避である。そう考えれば、今の株安はむしろ幸いだと言えるだろう。最後に一気に落 ちるよりは、徐々に下落してゆく方がまだましだからである。
いずれにせよ量的緩和の終わりはまだ遠く、現在はむしろアメリカの量的緩和再開を議論する段階である。利上げは失敗し、Fedは金融緩和を再開する。ロジャーズ氏だけではなく、優れたヘッジファンドマネージャーは皆、世界経済に悲観的である。