これまでインフレを恐らくは一番正しく予想してきた経済学者のラリー・サマーズ氏が、Bloombergのインタビューでインフレ減速で金利低下を織り込み始めている金融市場に異議を唱えている。(12/6誤字修正)
加速する賃金インフレ
先月発表された10月のアメリカのインフレ率は市場の予想以上の急減速となっていた。
それで市場はようやく利上げから解放されると考え、金利低下、ドル安、株高で反応した。
だが今月発表された雇用統計では、サービスの価格などに影響する平均時給の上昇率が前年同月比で5.1%に加速した。
金融引き締めにすぐに反応する原油価格などとは違い、労働市場は中央銀行にとって一番操作が難しい部分である。そして賃金インフレは止まっていない。
このことについてサマーズ氏は次のように述べている。
平均時給の上昇率は直近1ヶ月で年率7.5%、直近3ヶ月で6%、直近1年で5%だ。上昇率は高い。そして加速している。
中央銀行が目標としている水準までインフレ率を下げるのにはまだまだ長い道のりがかかるだろう。
平均時給の上昇率は確かに加速したが、トレンドとしてはそれほど急激に加速しているわけでもない。チャートをもう一度掲載しよう。
だがサマーズ氏の言う通り、今回のデータの示しているのは、インフレは素直にすぐに下がってくれそうにはないということだろう。
原油価格が下がる一方で労働市場はまだまだ強い。物価は内訳となる要素が様々に動きながら、来年にかけて緩やかに減速するが、市場が期待しているほどすぐに下がるわけではない。それがサマーズ氏と筆者の見方である。
金利の動向
さて、金利はどうなるか。利上げは何処まで行くのか。それが株式市場にとっても重要なことである。
現在アメリカの政策金利は3.75%であり、今月のFOMC会合で4.25%まで引き揚げられることになっている。
問題はその後利上げが何処まで進むのかということであるサマーズ氏は次のように述べている。
4%で止まることはほとんど有り得ないように思える。6%は間違いなく有り得るシナリオだ。そう考えると5%は金利の動向のメインシナリオではない。
市場では政策金利は来年5.25%まで上がると織り込まれているので、サマーズ氏はそれ以上の利上げを予想しているようだ。
事実、インフレ予想とインフレ先行きは絶えず上方修正されてきた。元々は中央銀行は「インフレは一時的」だと主張していた。そこからインフレは3%を超え、4%を超え、5%を超え、8%台に達して、金利もそれに合わせてどんどん上がってきたのである。
サマーズ氏はこの状況を次のように揶揄している。
空港で飛行機を待っている時のようなものだ。初めは7時半に離陸すると言われていた。そして8時半に変更される。更に9時半に変更される。
こういう状況では大抵11時まで引き伸ばされるだろう。経済予想も同じだ。
サマーズ氏の比喩はいつも的確だ。一方でインフレ急減速でアメリカの長期金利は下がっている。
それに安心して株式市場も上がっている。
サマーズ氏によれば、これは楽観ということになる。もうすぐ発表される11月のインフレ率がどうなるかである。そちらも勿論報じるので、楽しみにしてもらいたい。