世界最大のヘッジファンド、インフレ減速を予想できず大損の模様

今年の前半には株価急落予想を的中させ大きな利益を上げたレイ・ダリオ氏が運用する世界最大のヘッジファンドBridgewaterが、第4四半期には13.2%の損失を出したらしい。Bloombergが報じている。

インフレ予想を的中させたダリオ氏

ここではいつも相場観を紹介しているダリオ氏だが、彼は2022年の物価高騰の状況をいち早く予想したファンドマネージャーの1人でもある。

ウクライナ情勢がインフレの原因だと思っている人には意味不明だろうが、彼は2020年9月の時点で2022年のインフレ株安相場を予想し、1970年代の物価高騰時代の株式相場の研究を始めていた。

もちろん現在のインフレの原因は当時行われた現金給付である。

インフレから金融引き締め、そして株価下落へのシナリオを2年前から待ち構えていたダリオ氏は、当然ながら2022年前半の株価急落を見事に捉え、半年で32%という驚異的な利益を上げていた。

2022年後半のダリオ氏

2022年前半の時点では、筆者を含むファンドマネージャーらは金利上昇と株安を予想するという点で全員一致していた。

だが2022年後半に入ると意見が分かれ始めた。特に重要なのは金利がどこまで上がるかについての予想である。

ジェフリー・ガンドラック氏やスコット・マイナード氏などの債券投資家は利上げは行き過ぎであると主張し、長期金利低下を予想していた。

一方でダリオ氏は著名投資家の中でもかなりの高金利を予想する論者となっていた。

金利はもちろんインフレ率次第なので、高インフレ継続なら高金利、インフレ減速なら金利も落ち着くということになる。

筆者がどう予想していたかと言えば、インフレ減速を予想して低金利に反応しやすいゴールドの買いを10月に仕込んで準備をしていた。

10月インフレ率の急減速

そして審判の日はやってきた。11月10日に10月分のインフレ率の急減速が発表された。

アメリカの長期金利はこれに反応して下落を開始した。

これまで高金利に頭を押さえつけられてきた米国株は反発で反応している。

そして金利低下を受けてドルは急落した。以下はドル円のチャートである。

ドル安はゴールドへの資金逃避も促し、金価格も上昇している。それについては以下の記事を参考にしてもらいたい。

結論

結果としてBridgewaterは第4四半期に入ってから13.2%の損失を計上し、今年前半までは32%だったはずの年始からのリターンは11月25日時点で6%まで落ち込んでいるそうだ。

金利上昇継続を予想していたダリオ氏は、金利低下、株高、ドル安の流れを読みきれなかったものと思われる。

だが実際にはダリオ氏はここまでの流れを予想していたはずである。何故ならば、コロナ後の流れが最終的にはドル安に繋がることを2020年の時点でいち早く警告していたのがダリオ氏だったからである。

スタンレー・ドラッケンミラー氏はそれを待ち構えていた。筆者もそれを待ち構えていた。

ダリオ氏もそれを知っていたはずである。だが前から思っていたのだが、コロナ初期の株安で損を出したことも含めて、ダリオ氏は間違いなく世界最高のアナリストである一方で、トレーダーとしてはそれほど優れてはいないのではないか。

ジョージ・ソロス氏はアナリストとしてもトレーダーとしても優れていたが、ダリオ氏には同じことが出来ないのかもしれない。

彼の研究はそれを読んでいる筆者などには非常に役に立つだけに、彼自身のリターンに繋がっていないのが残念でならない。

だが今の状況だけでダリオ氏を評価するのはフェアではないかもしれない。市場はまだ2023年の経済状況を織り込んでいない。株高に湧いている市場は、株価が救われてインフレも収まるというシナリオを信じている。

だがダリオ氏の優れた分析によればそれは有り得ない。読者も以下の記事を読んで彼の分析を判定してみてほしい。