ドラッケンミラー氏、高齢者が若者から搾取する税制を痛烈批判

これは2013年のインタビューなのだが、今の日本の状況に相応しいと思ったので紹介したい。ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを運用していたことで有名なファンドマネージャーのスタンレー・ドラッケンミラー氏が、TheLeapTVのインタビューで社会保障を通した世代間の資産移転を痛烈に批判している。

世代間の資産移転

世代間の資産移転とは何か。ドラッケンミラー氏は次のように説明している。

高齢者はここ30年か40年の間、制度を通じて若者世代からの資産移転を実行してきた。

アメリカの平均的な65歳は、生涯で政府から受け取るお金が支払うお金よりも32万5,000ドル多くなる。だが若者かこれから生まれる世代は、支払う金額が受け取る金額を大きく上回る。

政府とは何だろうか。政府とは税金を徴収して財政支出を行うものである。彼らは取り上げた後で自分がばら撒きたい方向に支出する。

だがドラッケンミラー氏が注目しているのは、世代によってどれだけ支払いどれだけ受け取るかが違うという点であり、そして若者は、別に彼らが何か悪いことをしたわけでもないにもかかわらず、何故か生まれた時から借金を背負っているということである。

社会保障という名の窃盗

だが若者から吸い取られたお金は何処かで使われているはずである。そこでドラッケンミラー氏は政府支出の内訳に注目する。

ドラッケンミラー氏のデータによれば、アメリカでは1960年には個人消費に占める医療費の割合は極僅かだった。それがその後50年ほどで医療費は急増し、アメリカの個人消費の大きな部分を占めるようになっている。

1960年には高齢者の割合がそもそも少なかったこと、医療が発達していなかったこともあるだろう。高度な医療を受けられるようになったことは良いことではないか。

だが問題は、増大した医療費の大半が公費だということである。つまり、その医療費は高齢者が自分で払っているのではなく、若い世代が払っている。

これはそもそも何故なのか。1960年の高齢者には、医療が空から降ってくるようなことはなかった。だがそれが今の高齢者には降ってくるとすれば、その根拠は何なのか? ドラッケンミラー氏はこの根拠のない資金移転を痛烈に批判しているのである。

社会保険税

こうした世代間の窃盗の最たるものが、日本で社会保険と呼ばれているものである。アメリカにも似たようなものは存在し、それは給与税と呼ばれている。ドラッケンミラー氏が次のように説明している。

アメリカでは、給与税と呼ばれているものが存在する。

政府に給与税を支払うと、65才以上になった時にそれが戻ってくるという仕組みだ。

それの何が悪いのか。この制度の致命的欠陥は、払ったお金がそのまま戻ってくるわけではないということである。

払ったお金が戻ってくるだけならば、世代間の問題は存在しない。自分のお金が自分に後で返ってくるだけである。だが日本の社会保険税もアメリカの給与税もそういうものではないのである。

ドラッケンミラー氏は半笑いで次のように言う。

わたしが人にお金を貸して、彼はわたしに後でお金を返すことを約束した場合、彼が負債を抱えているという事実にほとんどの人が同意するだろう。

この給与税を政府がどう会計処理するか知っているだろうか? 彼らはそれを負債と呼ばない。彼らはそれを収入と呼ぶ。

そして政府がこれを負債と呼ばないことには理由がある。社会保険税が何故「税」なのか考えたことがあるだろうか。答えは単純である。負債は返さなければならないが、収入は返さなくとも良いからである。

つまり、政府が運用するような年金は、制度が破綻して返せなくなれば返すお金を自由に減額できるように始めから設計されており、日本では実際にそのようになっているのである。

年金が減額されて怒っている人々は、そもそも年金が減額できる設計になっている時点で馬鹿げた制度だと気付くべきだったのであり、筆者から見れば今更何を言っているのだろうと思う。年金とはそういう制度なのである。

本当の政府債務

日本でもアメリカでも政府債務が莫大な金額になり、これをどうするのかという議論がされているが、ドラッケンミラー氏に言わせればそんなことは笑い事に過ぎない。何故ならば、本来負債とカウントすべきだがカウントされていない社会保険のようなものがあるからである。

ドラッケンミラー氏はこう続ける。

アメリカの17兆ドルの政府債務のリスクについて大騒ぎしている人がいるが、エンロンとファニーメイとフレディマックを除く普通の企業がやるような会計基準で計算すれば、政府債務は17兆ドルではなく205兆ドルになる。

この205兆ドルを支払うのは誰か? 若者たちだ。

だが年金のような制度には、高齢者が昔払ったお金があったはずである。しかし政府は今お金を持っていないと言う。

預かっていたはずのお金は何処に行ったのか? 政治家による財政支出で消えてなくなったのである。

東京五輪の汚職などを見れば明らかなように、そうしたお金のほとんどは国民には行かず政治家が自分の票田にばら撒いている。社会保険税は「収入」なのだから、返す時のことなど考えずに使ってしまっても何の問題もないということである。

だが少なくとも言えるのは、アメリカでも日本でもその恩恵は政治家の票田の次には高齢者に行っており、若者には行っていないということである。

人々の払った「税金」は既に使われてなくなっている。日本でも平日に自由に旅行できる老人のための全国旅行支援や、もう働いていないために収入のない住民税非課税世帯である老年世代への給付金に使われているではないか。

それで若い世代は税金を払うだけである。だが高齢者が財政支出の恩恵を受けながら年金まで受け取るのは二重取りではないのか? 何故誰もおかしいと思わないのだろうか。

ドラッケンミラー氏は自分を例に挙げながらこう続ける。

自分を例に言えば、あと5年で月3,500ドル(訳注:およそ50万円)を社会保障として受け取ることになる。馬鹿げている。完全に馬鹿げている。

そのお金は恐らくわたしが払ったお金より多くなる。

ドラッケンミラー氏が更に言及するのは、そうした保証の受け取り期間、つまりは寿命についてである。

更にデータを示せば、アメリカの富裕層は貧困層や中間層よりも5年多く生きる。だからわたしはそのお金を他人より5年多く受け取ることになる。

最初に取り上げた医療費の話がここに戻ってくる。今の若者たちが高齢者になる時には、今の高齢者が受けているような医療を受けるお金はなくなっているだろう。

若者が将来受け取る側になって政府がそれを払えなくなっている頃には、彼らは医療が受けられず今の高齢者よりも早く死ぬようになるので、政府にとっては大助かりというわけである。社会保障とはよく出来ているではないか。

結論

ドラッケンミラー氏の議論によれば、若者から老年世代へ移転されているのは資金だけではなく寿命さえも若者は奪われているということになる。

アメリカにおいてこの状況を推進してきたのは主に民主党であり、日本においては自民党ということになるが、実は日本における世代別の自民党の支持率を見ると面白いことが分かる。読売新聞によるチャートを以下に引用しよう。

これを見ると、高齢者優遇・労働世代軽視の政策を実行している自民党を支持しているのは、実は60才以上の高齢者ではない。

自民党の支持率が一番高いのは30代と40代であり、まさに社会保険税を絶賛搾取され続けている彼らが、搾取している自民党を支持しているという結果になっている。

自民党は別に彼らをターゲットにした政策をしていないので、自民党の政治家たちは彼らの高い支持に首を傾げていることだろう。搾取的な制度を支持しているのが搾取されている側だという事実がいかにも日本らしい。

ということで、筆者は普段から所得税と社会保険税と消費税で収入の半分以上を搾取する政党を自分から支持する日本人は自発的な奴隷であると言い続けてきたが、この愚かさはどうやらこの世代から来るらしい。

だがこのデータには希望が見える。20代以下の若者の自民党支持率が60代に次いで低いことである。

つまり、ドラッケンミラー氏の言うような世代間の欺瞞に、日本の若者たちは気付き始めている。

奴隷になることを拒絶できる人々の未来は明るい。そう願いたいものである。彼らが働き盛りになる頃には、今奴隷になっている世代が高齢者になるので、彼らが今の若者のためにもきっちり奴隷になり続けてくれることを祈るほかないだろう。