世界最大のヘッジファンド、株式の買いを大幅減額、弱気継続

引き続き機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fである。今回はレイ・ダリオ氏の運用する世界最大のヘッジファンド、Bridgewaterのポートフォリオを見てゆきたい。

ダリオ氏の今年のトレード

ダリオ氏も他の著名投資家の例に漏れず、今年の前半は市場急落を予想して大きな利益を上げた。

その後は欧州株空売りポジションの手仕舞いなどがありつつも、ダリオ氏は長期的には株安予想を維持しているようである。今回のForm 13Fの開示は9月末のポジションだが、丁度9月に弱気予想を発表している。

この予想は今でも継続しており、今月のインタビューでも金利は更に上昇し株価の下落は継続するとダリオ氏は言っている。

ダリオ氏は著名投資家の中でもかなり高金利を予想している部類に入る。現在アメリカの金利は4%前後で推移しているが、そこから2%も上がれば株式市場は大変なことになるだろう。

ダリオ氏のポートフォリオ

今回開示されているポートフォリオもその相場観に沿ったものとなっている。Form 13Fに載っている買いポジションの総額は6月末の236億ドルから198億ドルへと20%近く減っており、ダリオ氏が弱気を継続していることが分かる。

Form 13Fには買いポジションしか記載されないため、実際には別に立てている空売りポジションがあると思われる。

ポートフォリオの中身自体は、前回からそれほど変わっていない。規模の大きいものを順にいくつか並べると次のようになる。

  • P&G: 8.4億ドル
  • Johnson & Johnson: 7.7億ドル
  • Pepsi: 6.6億ドル
  • Coca-Cola: 6.4億ドル

配当銘柄が並んでおり、配当銘柄は高金利に弱い(実際、これらの銘柄の配当は短期金利に抜かれている)ため、一見ダリオ氏の高金利予想と矛盾しているように見える。

いくつかチャートを並べてみよう。P&Gの株価は次のように推移している。

実際に金利が上昇している期間は下落しており、インフレ減速期待で金利が低下した10月以降は上げに転じている。長期金利のチャートと並べると分かりやすく逆相関となっている。

他の銘柄も同じような感じであり、以下はJohnson & Johnsonのチャートである。

高金利予想に反しているように見えるこれらのポジションをどう考えるかだが、もしダリオ氏が債券市場などで金利上昇に賭けるポジションを取っていたとすれば、インフレ急減速による最近の金利低下でそれらのポジションは損を出し、配当株の買いは逆に利益を生んだはずである。

そのようにバランスを取る上で全体の方針とは一見逆のポジションを追加することはある。いずれにしても、全体の金額を減らしていることもあり、ダリオ氏は米国個別株で儲けるつもりがあまりないのだろう。

中国株は増やさず

筆者がもう1つ注目したのが、ダリオ氏の中国株ポジションである。ダリオ氏の中国推しはよく知られているが、利上げ相場で新興国株は軒並み総崩れとなったため、主に中国株で構成される新興国株ETFを大幅に減らしていた。

だがもし金利上昇とドル高がこの辺りでピークなのだとすれば、新興国株の買いは考えられる選択肢である。低金利と現地通貨上昇の両方の恩恵を受けるからである。少なくともジェフリー・ガンドラック氏はドル高が収まれば新興国株だと言っていた。

それでダリオ氏が中国株のポジションを戻したかどうかが気になっていたのだが、iShares Core MSCI Emerging Markets ETFのポジションは2%減らされて6.4億ドルと、前回からほとんど変わっていない。

ダリオ氏はやはり金利上昇の継続を信じているようであり、新興国株を買いに行く気はないようだ。ちなみにこの新興国株ETFは以下のように推移している。

これもやはりアメリカの長期金利の逆相関である。

結論

少なくとも言えることは、ハイテク株やディフェンシブ銘柄に賭けて景気後退と金利低下に備えているジョージ・ソロス氏とスタンレー・ドラッケンミラー氏とは違い、ダリオ氏はやはりまだ金利上昇を考えているのではないかと思う。

一方で、ウクライナの地対空ミサイルがポーランドに落ち、それをウクライナのゼレンスキー大統領が「ロシアのミサイルがポーランドを攻撃した」と主張したことは、ダリオ氏が以前より主張していた世界大戦シナリオに驚異的に近づいたと言える。

ダリオ氏の持ち味は市場だけでなく世界情勢すべてを見据えた上での長期予想である。引き続き彼の相場観を伝えていきたい。