世界最大のヘッジファンド: 金利は6%まで上昇し株価は更に下落へ

世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏が、Business Todayのインタビューで話題のインフレと今後の金利について語っている。

ダリオ氏のインフレ見通し

Fed(連邦準備制度)の金融引き締めが議題に上がってからちょうど1年、金融引き締めはようやく効果を発揮してきたようで、最近発表された10月のインフレ率は急減速となった。

このデータを受けて様々な専門家が意見を表明しているが、ダリオ氏も早速次のように自分の予想を加える。

インフレ率は恐らく大体5%程度になるだろう。あらゆるショックが想定されるため不確定性の高い予想にはなるが、現在の金融引き締めの後にインフレ率は4.5%、5%辺りに落ち着くはずだ。

この数字は概ね筆者の予想に近い。筆者の予想の根拠は上の10月のインフレ率の記事に書いてある。ちなみに市場の期待インフレ率はいまだ2%台である。有り得ない。

ダリオ氏の金利予想

さて、ダリオ氏はインフレ率は今後その辺りに収束すると予想した上で、では金利はどうなるか。彼は次のように述べている。

実質の金利、つまりはインフレ率を差し引いた金利は、現在1.5%近辺かそれよりやや高めで推移している。

彼は市場の実質金利の織り込みをそのまま用いている。それにインフレ率の予想値を足せば名目金利の水準が計算できるということである。ダリオ氏はこう続ける。

これの意味するところは、無リスク金利が6%に近づいてゆくだろうということ、Fedが短期金利をその水準まで上げるだろうということだ。

現在、今後の政策金利の水準を織り込む2年物国債の金利は次のように推移している。

ダリオ氏の言うようにこれが6%になるなら、金利はまだかなり上がるということになる。筆者の予想では市場の実質金利の織り込みが現在のままになるということはないと思うのだが、ダリオ氏の予想に話を戻そう。彼はこう続ける。

金利がそこまで上がれば実体経済にとって非常に有害だが、Fedは金利が債権者にとって十分高く、債務者にとって高すぎないようにバランスを取ろうとしている。

だから金利はこれから徐々に上昇のペースを減速させてゆくが、それでも5%台に近づき、恐らくは5.5%近辺で推移するだろう。

株価と経済への影響

ダリオ氏の言うように金利がまだここからかなり上がるのであれば、それは株式市場にも実体経済にも影響を与えるだろう。ダリオ氏は次のように説明する。

それは金融市場全体に影響を与える。株式市場にはマイナスになるだろう。金利が高くなれば、株式市場はそれよりも高いリターンを求められる。(訳注:市場は株価下落によって将来のリターンを確保する。)

また、更に重要なのは実体経済への影響である。実体経済が市場予想よりも総崩れになれば、当然株価にも影響が出るからである。

ダリオ氏はこう続けている。

更に、この金利とは政府の金利のことなので、信用の低い債務者はそこに例えば5%を載せなければならない。そうすれば10%や11%の金利を払わなければお金が借りられなくなる。

その影響は、利益が出せないために借金に頼って操業してきた企業にとって特に深刻だ。

何年もの間ゼロ金利に頼って自転車操業を続けてきたゾンビ企業は、2023年に4%以上の金利が持続することによって恐らくほぼ一掃されるだろう。

インフレ減速を的中させたと言えるジェフリー・ガンドラック氏やスコット・マイナード氏などの債券投資家たちはジャンク債など高金利の債券の買いを薦めているが、この状況でゾンビ企業の債務を買うことに筆者はどうしても同意できない。ジャンク債ETFは以下のように推移している。

金利上昇の株価への影響

株価はどうなるか。金利はまだここから1%以上上がり、それは年始以来下落を続けてきた株式市場を更に押し下げるのか。

金利とインフレについては既に市場は織り込んでいるのではないかとインタビュワーに聞かれ、ダリオ氏はこう答えている。

いや、織り込まれていない。市場が織り込んでいるのはむしろインフレ率の急激な下落だ。

上にも書いたが、市場の期待インフレ率はいまだ2%である。これは絶対に有り得ない。ガンドラック氏などは、本当にインフレ率がそこまで急激に落ちるのなら、インフレ率は2%で止まらずにそのままマイナスまで行ってしまうと言っている。以下の彼のコメントを思い出したい。

何故2%で止まるのか? そこに何か魔法でもあるのか?

ダリオ氏はこう続ける。

原油やコモディティ価格などの外部要因や住宅価格などがピークを迎えるなどの理由でインフレ率が下がるということは分かっている。

それでインフレ率はいくらか下がる。8%からは下がるだろうが持続する要因ではない。

一方で賃金や雇用の要因は比較的力強い。失業率は低く、労働者にはまだ需要がある。そして賃金はインフレの一部だ。

読者も知っての通り筆者もCPI(消費者物価指数)の内訳など様々なデータを見ながら今後のインフレ率を考えているが、どう計算しても来年の内に2%になることはない。なるとすれば、アメリカ経済が完全に壊滅になるシナリオだけである。インフレ率が6%も急激に下落すれば、経済成長率は10%は落ちるだろうからである。

ダリオ氏はこう纏める。

債券市場は金利とインフレ率の低下を織り込んでいるが、金利もインフレ率も市場の織り込みよりも高い水準で留まるだろう。

結論

ダリオ氏の言うように金利がここから更に1%上がるならば、インフレ減速で短期的には喜んでいる株式市場はここから痛いしっぺ返しを受けることになる。米国株は以下のように推移している。

金利において1%の差はかなり大きい。

しかしダリオ氏と筆者の予想で1つ違うのは、ダリオ氏が現在の市場の実質金利をそのまま受け入れていることである。実際には、期待インフレ率の上昇(というよりは2%ではなくまともな水準まで上がっていくこと)は実質金利の低下である程度オフセットされるだろうと筆者は予想している。

そして期待インフレ率の上昇と実質金利の低下は、どちらも金価格にとってプラスになる。だから金価格急騰の前にゴールドを買っておいたのである。

ダリオ氏はあまり過激な表現を好まないが、ここから1%の金利上昇は少なくとも株価にとってかなり過激なことになる。筆者は少なくともそれよりは強気派と言えるかもしれない。

だが他の投資家たちもインフレ減速を受けて株価見通しを変えた人は少なそうだ。マイナード氏は短期的上昇を予想したが、それは皆分かっている。