これまでインフレの脅威を警告し続けてきた、アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergによるインタビューにおいて、先週発表された10月のアメリカのインフレ率についてコメントしている。
急減速したアメリカのインフレ
10月のインフレ率は市場予想を上回る急減速だった。長らく8%台で推移していたインフレ率は遂に7%台に落ちてきた。
これまでインフレの根強さを警告し続けてきたサマーズ氏は次のようにコメントしている。
良い数字だったと思う。しかしひと月の数字は決して決定的とはなりえない。今回の数字の要素のなかには後で元に戻るだろうものが沢山ある。
今回のインフレデータにおける最大の問題は、この急減速のうちどれだけが一時要因でどれだけが持続する要因なのかということである。
サマーズ氏は次のように説明する。
チーム「インフレは一時的」のメンバーたちは今後下がるだろう数字にばかり注目し、今後上がりそうな数字には注意を払わない。
服飾の価格はそれほど早くは下がらないだろう。医療の分野で構造的なインフレ低下が起きているとは思えない。
個人的には、一部は一時要因だったとしても少なくとも中期的には持続する要因が多かったように思う。インフレ率発表の時の記事で説明しているが、住宅価格が減速していたのは注目すべきことであり、それは少なくとも中期的には持続がほぼ確定している。
だがサマーズ氏の論点は、ひと月の数字に注意を払いすぎるなということである。彼はそのことを次のような洒落た表現で表している。
確かにこれは安心できる数字だった。しかし似たように安心できる数字は3月にも7月にもあった。しかしたった1羽のつばめが春を意味することはなかった。
しかしこれまであまりに暗いニュースしかなかった株式市場はこの短期的なニュースに飛びついた。米国株のチャートは次のようになっている。
サマーズ氏はこうした市場の反応については次のように述べている。
良い数字だったことは確かで、市場がポジティブに反応したことは妥当だ。ただその規模が妥当だったかどうかはかなり疑問だが。
インフレの長期的見通し
だが結局一番重要なのはより長期的なインフレ率の推移である。サマーズ氏はこう述べている。
インフレが5%や6%で推移している限り、インフレ率が2%目標に戻る道筋は見えない。
現在インフレ率は7%台だが、5%という数字が出てくるのは、インフレ率が下落後に何処に落ち着くかについてのサマーズ氏の予想を表しているのではないか。
以下の記事で書いた通り、現在、1年間のインフレの上昇率ではなく、前月からの1ヶ月間の変化が1年続けばどうなるかという前月比年率のインフレ率は5.4%になっている。
この数字はここ1年インフレがどう推移してきたかに影響されない直近のインフレの動きを表しており、恐らくはこの数字こそが今後のインフレ率の収束する先を示しているのではないかと筆者は考えている。
そうするとやはり金利も同じように5%台まで上がってそこで維持されるということになり、来年1年間の高金利継続シナリオは不変ということになるのである。
何度も書いているが、その高金利に長期間晒されたとき米国企業の純利益がどうなるのかということが株式市場にとって問題となる。
今回のインフレ減速については様々な人が意見を表明しているので、そちらも参考にしてほしい。