ドル円が反発している。これまでに指摘してきた通り、金利先物市場が織り込む2016年の利上げ回数がゼロというのは行き過ぎだったのであり、市場が再び利上げを織り込み始めているのである。現在の金利先物市場の織り込みは1回となっている。これでもFed(連邦準備制度)の主張する2回よりは少ないが、いずれにせよ今年の利上げ回数は1回か2回だろうと予想している。
このまま米国が利上げを行えばドルは上がり続け、ドル円は長期的にも上昇してゆくのか? この記事ではもう一度、ドル円の見通しを確認してみたい。
ドル円の適正レート
ドル円がどのレンジに収まれば適正かということについては以前に記事にしてあるので、それを思い出してもらいたい。
この記事では、日本の量的緩和のみを考えた場合、ドル円の適正レートは125-130円程度であると述べた。これは日米のマネタリーベースを比べて導き出した数値である。
しかしながら、この数値はドル側の事情を考慮していない。2016年初めの世界同時株安以降、投資家は利上げに対して悲観的になった。金利先物市場における利上げの織り込みが進まない一因は、恐らくは米国が利上げを撤回し、利下げに逆戻りする可能性を市場が織り込み始めているのではないかと思う。この利上げへの不信感と、日経平均に対するリスクオフの2つが、これまでドル円が下落していた理由である。
利上げが進めばどうなるか?
市場は世界同時株安の恐怖を忘れつつある。懸念された中国のバブルも当面の懸念ではなくなったかのような気配が市場に漂っている。ジョージ・ソロス氏は中国政府がこの状態を1-2年保てるかもしれないと予想している。
このまま利上げが進めばどうなるか? 市場は今のところ利上げが順調に進むというところまで楽観はしていないようだが、もし利下げの可能性を忘れるところまで市場が楽観ムードを取り戻せたとするならば、ドル円は115を超えて120円を目指してゆくことも可能かもしれない。しかし投資家はあることを忘れてはならない。上に書いた125-130円という水準は、目標値というよりはデッドエンドなのである。
ドル円の行き止まり
ドル円はその水準で行き止まりである。何故ならば、日銀には為替に影響するレベルで有効な追加緩和はヘリコプターマネー以外もう残っていないからである。
マイナス金利などは忘れていい。金利がマイナスの水準で0.1%利下げすることは、プラスの水準で0.1%利下げすることよりも効果が薄いのである。マイナス金利とは手段がなくなった後の苦し紛れの緩和であり、異次元の緩和などではない。
そして、世界で行われていることは通貨切り下げ競争である。日本が切り下げれば(もし切り下げられればの話であるが)、ユーロも追従するだろう。そうして円やユーロに対しドルの価値が上がれば、アメリカ経済がドル高による輸出不振に耐えられなくなり、利上げが出来なくなるのである。
利上げの不可能性
アメリカの利上げが上手くいかないという話は散々してきたので、過去の記事に任せるとしたい。
しかしドル円に関して言えば、115円を超えた段階で買いなどではなく空売りが視野に入ってくる。もし世界経済についての市場の楽観が続き、ドル円が120円を超えるようなことがあれば、それは完全に空売りの対象である。
いずれにせよ、ドル円は上に行けば行くほど下落方向のポテンシャルが高くなるバネのようなものである。だから買いで入るのは得策ではない。それに日銀はヘリコプターマネーを除けば既に手段を使い果たしている。
むしろ投資家に推奨したいのは、ドル円を市場の楽観の度合いを示す指数として観察すること、そして楽観が行き過ぎた場合、その楽観を空売りすることである。いまはまだその水準まで達していないが、引き続き注視してゆきたい。