世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏がLinkedInのブログで莫大な債務を抱えた日本経済の行く末について語っている。
現金給付の結末を予想したダリオ氏
ついに世界的なインフレが起こってしまった。思い返せば、この状況を一番早く予想していたのはレイ・ダリオ氏ではなかったか。このインフレを引き起こした現金給付について、ダリオ氏は早くも2020年5月には次のようにコメントしていた。
これはある意味モノポリー(訳注:人生ゲームのようなもの)でプレイヤーのほとんどが文無しになって怒り出したので銀行役の人が現金を配り始める瞬間と同じようなものだ。
人間はいくつになっても中身は子供と大して変わらない。現金給付を求める人も居れば、インデックスを保有して寝ているだけで金が儲かるという幻想にしがみつく人もいる。本質的には同じことである。
だが当時ダリオ氏が何をしていたかを思い出してほしい。人々が政府によるお金配りに熱狂していた一方で、ダリオ氏は淡々と紙幣印刷で滅んでいったかつての覇権国の研究をしていた。
当時、何故ダリオ氏が突然オランダ海上帝国や大英帝国の研究をし始めたのかを本当の意味で理解した人はほとんどいなかっただろう。
だが物価高騰と株価暴落が起こっている今、読者は2年前のこれらの記事をどう見るだろうか。
先進国の衰退の段階
いずれにせよ、インフレは起こってしまった。紙幣をばら撒き過ぎたので紙幣の価値がなくなり、紙幣ではものが買えなくなってしまった。
だがダリオ氏によれば、それは先進国に起こる典型的なサイクルの一部の過ぎないという。ダリオ氏は次のように語っている。
多くの国、特に主要な通貨を保有する国々は、経済の長期サイクルのうち縮小・再整理の段階に近づいている。
縮小・再整理の段階とは何か。アメリカも日本も、かつて栄えた国である。アメリカは辛うじてまだ栄えていると言えるだろうか。少なくとも2021年まではそうだと言えただろう。
しかしダリオ氏の経済理論によれば、栄える国は大抵の場合債務を増やしながら栄える。そして最初のうちは生産力の向上によって栄えてきたこれらの国は、徐々に債務に頼らなければ経済成長できなくなる。
どのような国でも永遠に栄えることはないので、そのタイミングはいずれやってくる。つまりは債務の力に頼ってももはや経済成長できないタイミングがやってくるのである。
ダリオ氏は次のように言う。
縮小・再整理の段階とは、債務の水準と成長率が1930年から1945年のように持続不可能な規模になった場合に起こる。
より具体的には、債権者を惹きつけられるだけの金利水準が、支払い義務を履行しようとする債務者にとって耐えられないほど高くなってしまった時にそれは生じる。
アメリカはまさにそういう状態にあると言えるだろう。アメリカの金利は4%程度であり、これまでゼロ金利に慣れ親しんできた借金漬けの企業にとっては耐えられないほど高い。
一方でアメリカのインフレ率は8%なので、4%の金利では債券の保有者は債券を持っていると差し引きで実質4%損をしてしまう。
どちらにしても滅ぶしかない
ダリオ氏は次のように続ける。
この状況になれば中央銀行は難しい立場に置かれる。(債券が投げ売りされて)金利が高騰し、資産価格や経済にダメージが及ぶことを許すか、紙幣を印刷して債券を買い支え、紙幣の価値が下がることを許すかのどちらかしかない。
そしてこの選択に既に迫られている国がある。ダリオ氏はこう続ける。
例えばイギリスの債務をめぐる大混乱は一番典型的な状況だろうし、より目立ってはいないが日本の紙幣印刷と円の減価は同じ状況だと言える。
イギリスの状況は、それを引き起こしたトラス政権の退陣という形で一応は決着した。
しかし日本の状況は続いている。そもそもこの状況は2012年のアベノミクスの頃から続いている。
市場がアベノミクスを織り込み始めた2012年11月16日の衆議院解散時の日本円の価値(対ドル)を100とした場合、その後の円の価値は以下のように推移している。
当時を100とした場合、今の円の価値はおよそ55である。
結論
人々は米国株が20%ほど下落したくらいで大騒ぎしているが、そもそも10年でほぼ半値になっているものを日本人の多くは保有しているではないか。
そして何故そうならねばならなかったのか? 何故債務は増えなければならなかったのか? 政治家が東京五輪やGO TOトラベルを行うためである。
それでも日本人は自民党に文句を言わない。彼らは永田町の中高年に貢ぐために生きているので、そっとしておいてあげるのが良いだろう。変わったキャバクラが日本では人気なのである。
投資家はただ市場の行方を予測するのみだろう。ダリオ氏は次のように言う。
中央銀行が強力な利上げを行ない流動性を引き締める場合、金融資産の価格は下がり、経済のうち金利に敏感な部分がダメージを受けるだろう。
一方で中央銀行が紙幣印刷を続ける場合、彼らの通貨の価値はより急速に落ちていくということが事実起こっている。
ドル円に関して言えば、短期的にはアメリカの利上げの限界はドル高の限界を意味する。円と同様にドルもゴミであるために、短期的には円が下がったりドルが下がったりするだろう。
だが長期的にはどちらも沈んでゆく。そして恐らく円の方が激しく沈んでゆく。
ドル円が150円というのは短期的には天井かもしれないが、長期的にはまだまだ通過点に過ぎない。財布の中に入っている日本円の価値をちょっと疑ってみるのが良いだろう。永田町のキャバクラよりも良い使い道があるはずである。