アイカーン氏: 株式市場にはインフレ改善までにまだまだ困難が来る

引き続きForbesによる物言う投資家カール・アイカーン氏のインタビューである。今回は株式市場と今後のアメリカ経済について語っている部分を紹介しよう。

インフレは酷いものだ

話題はやはりインフレである。アイカーン氏は次のように述べる。

経済はインフレに囚われてしまった。

インフレは酷いものだ。それはほとんど薬物中毒のようなもので、一度始まってしまうとそれを取り除くのは非常に難しい。70年代を思い出してみることだ。

1970年代にはインフレ率は15%近くまで上がり、金利は何と20%に近づいた。

株式市場は1974年に半値まで暴落した。当時のインフレを退治したポール・ボルカー氏の回想を以下の記事に紹介している。

こうした経験を踏まえ、現在のFed(連邦準備制度)のパウエル議長はインフレ退治のために強力な金融引き締めを行なっている。

こうしたパウエル氏の対応についてアイカーン氏は次のように言う。

インフレを止めるために出来ることは何でもすると言っているパウエル氏は非常に正しい。

だが結果として、これまで低金利に支えられてきた今年の米国株は大惨事になっている。以下はS&P 500のチャートである。

金融引き締めと株価

今後株価はどうなってゆくのか。アイカーン氏は彼が大学生の時にトレーダーからもらったアドバイスの話をしている。

大学1年生の時、大学の友達が彼の父親との夕食に誘ってくれた。迎えに来た彼の父親はウォール街で非常に尊敬されていた大物トレーダーだった。

その時彼は「1つだけアドバイスしてあげよう、これだけ覚えておきなさい」と言った。

そして彼はこう言った。「ウォール街で金融に関わるようなことがあれば、このルールだけは守りなさい。Fedと戦うな。」そしてわたしはそのルールを学んだ。

そして金融引き締めがあっても米国株は大丈夫だと何の根拠もなく信じた人々はほとんど一掃された。いや、まだ一掃されていないということがポイントである。それはまだ下落余地のあることを意味する。

アイカーン氏は次のように言う。

わたしは今のFedとパウエル氏の言うことを真剣に受け取る。彼は本気だ。

Fedは緩和転換すべきか

だがインフレ率はもう半年も8%台で右往左往しており、今後下落する可能性が高い。

そうなれば利上げの天井が見えてくる。それは経済学者ラリー・サマーズ氏のようなもっともタカ派な人々でさえ認めている。

Fedはそろそろ緩和に転換するのか。利上げが止まれば株価と実体経済は救われるのか。アイカーン氏は次のように述べている。

経済は改善の兆しを見せるより前に更に大きく悪くなるだろう。

緩和転換についてはアイカーン氏は否定的なようだ。彼はこう続ける。

多くの人が緩和転換すべきだと言っているが、それは薬物中毒者に「十分薬を飲まずに我慢したからそろそろ飲んでも良いだろう」と言うようなものだ。そんなことは出来ない。問題は取り除かれなければならない。

パウエル氏が本気だということを嬉しく思う。何故ならば、現在のインフレは必ず除去しなければならないからだ。インフレは経済にとって最悪のものだ。

ここでは何度も言っているが、来年は金利が年間を通して4%を上回る年になる。サマーズ氏などは6%になるかもしれないと言っている。

ゼロ金利に慣れきってしまった企業がそれほどの高金利に1年も晒され続けるとどうなるか。その結果は既にハイテク企業などの決算に表れているではないか。事前に見え透いている株価の下落継続が何故多くの人には見えないのか、筆者には完全な謎である。

この状況で投資家アイカーン氏はどうしているのか。彼は企業を買収して役員を送り込み、経営を改善して売り抜けるのが仕事だ。つまりは買い専門である。だが彼の買いポジションは空売りによりヘッジされているらしい。彼は次のように述べている。

わたしはヘッジをしている。非常に大きなヘッジポジションを持っている。

そして高金利の影響を甘く見ている投資家に対して次のように語りかける。

自分を騙さないことだ。この大惨事から抜け出す前に大量の頭痛が来るだろう。

ここ20年か30年ほどの間、Fedは金融市場を助けに来ることが出来た。

だが今や彼らはそれがやりたくとも出来ない。紙幣印刷をすればそれはインフレの火にガソリンを注ぐようなものだからだ。

結論

本当に何度も言っていることだが、米国株が40年間長期的に上昇を続けてきたのは、ボルカー氏が金利を20%近くまで上げて以来、金利が一貫して下がり続けてきたからである。

だが40年も株高の原因であり続けた低金利はもうない。それは40年間溜まりに溜まった低金利の巨大バブルが崩壊する時である。それが高々20%程度の下落で終わると本気で思っているのか。

暴落相場はまだまだ始まったばかりである。ポール・チューダー・ジョーンズ氏の言う株価反発の兆候もまだ来ていない。幻想は捨てて現実を見ることである。