あまり表舞台には出て来ないが、出てきた時には面白いことを言ってくれるのが物言う投資家のカール・アイカーン氏である。彼はForbesによるインタビューで彼が大儲けしたTwitter株について語っている。
Twitter株の非公開化
アメリカの金融引き締めによって金利が上がり、ハイテク株が総崩れとなる中、なかなか悪くない値動きを見せたハイテク株がある。Twitterである。
チャートをまずは掲載しよう。
Amazon.comなどのハイテク株が下落トレンドとなる中、何故Twitterの株価は好調だったのか? 周知のことではあるがTesla創業者のイーロン・マスク氏に買収されたからである。
だがこのマスク氏によるTwitter買収の裏で大儲けをした人物がいた。それこそがアイカーン氏である。
FORTUNEのインタビューによれば、彼はTwitter株の買いについて次のように語っている。
Twitter株を36ドルか37ドルで5億ドル分買った。ほとんど本能的な買いだった。
アイカーン氏がTwitter株を買ったのは、マスク氏が買収の撤回を仄めかして株価が下落していた時だった。だがアイカーン氏は買収撤回が出来ないと読んだ。彼はこう語っている。
Twitter株買いのリスクリワード比は素晴らしかった。弁護士とも話したが、デラウェア州の裁判所は買収契約の履行について非常に厳しく、マスク氏が買収をせずに済ませられる見込みは少なかった。
それで実際にマスク氏は買収を履行すると言わなければならなくなった。予想を当てたアイカーン氏は大儲けしたわけだが、ここまでは先月の話である。
TwitterとSNS検閲
今回のForbesによるインタビューでアイカーン氏が語っているのは、マスク氏がTwitterを買収した理由の方である。
マスク氏はTwitterのツイート削除&アカウント凍結方針が社員による恣意的な検閲であるとしてTwitterを買収し、そして自分以外の役員を全員クビにした。
その後社員の半分をもクビにすると宣言して(元)社員たちの集団訴訟に遭っているが、同じく大株主であるアイカーン氏はこれに賛同しているらしい。
アイカーン氏は次のように述べている。
Twitterの一件は馬鹿げていた。
わたしは基本的に本当に必要でなければ検閲は行うべきではないと考えてはいるものの、ここでは政治について、あるいは誰かが誰かを検閲する権利を持っているのかについて話すつもりはない。
この話は検閲についての話であるものの、アイカーン氏は政治の話を持ち出すまでもなくTwitterによる検閲が馬鹿げたものだと言いたいらしい。
彼は次のように続けている。
だがTwitterの件で何が馬鹿げていたのかと言えば、株主のために働くべきTwitterの社員が、誰がSNS上に居座ることが出来て誰が居座れないのかを彼らの優れた智慧を使って決めていたということだ。
だがそういう時代はもう終わった。それは馬鹿げていた。
「優れた智慧」というのはアイカーン氏が本来その能力も権限もないはずの人物が自分の裁量で物事を勝手に決めている時によく使うフレーズである。
彼はより分かりやすく説明するために次のような例えで説明する。
例えばレストランを所有しているとして、自分のレストランの店員に「あの客は嫌いだから店には入れるな」「あの客は入っていい」と言わせたりするだろうか? そんな店員はすぐにクビだろう。Twitterの状況は単純に馬鹿げていた。
ネットにおける言論の自由
SNSはいつからそういう場所になってしまったのだろうか。筆者が記憶している一番象徴的な出来事は、2018年4月のマーク・ザッカーバーグ氏の議会証言だろう。
元々、言論は新聞社などの大手メディアに握られていた。政治家は大企業を締め付ける能力に長けているから、新聞社さえ封じ込めてしまえば、政治家は自分に都合の悪い情報を遮断することができた。
だがTwitterやFacebookなどの登場により状況が変わった。ヨーロッパの移民危機では大手メディアが意図的に報じなかった移民による集団性的暴行が、SNS経由で拡散した後に大手メディアも報じざるを得なくなるという一幕があったのを覚えているだろうか。
一部の政治家にとって移民政策は何があっても支持されなければならない政策だったのである。
だが2016年から人々は何かがおかしいことに気付き始めた。それは結局、移民政策に異を唱えたイギリス人のEU離脱に繋がり、同じ年に大手メディアの言論に異を唱えたドナルド・トランプ氏が大統領選に勝利した。
それで大手メディアを味方に付けていたリベラル派の政治家たちは大慌てでFacebookのCEOであるザッカーバーグ氏を議会に呼びつけた。
単に彼らの悪事が露呈して選挙に負けただけであるにもかかわらず、イギリスのEU離脱やトランプ氏の勝利は「偽情報」のせいであるとしてザッカーバーグ氏を責め立てた。
ザッカーバーグ氏は最初こうした主張を一笑に付していたが、彼は結局自分が対峙している政治家たちの強大さを思い知ることになる。彼は発言を撤回し、2018年4月、普段ほとんど着ることのないであろうスーツを着て議会証言に立たされたのである。
リベラル派に媚を売るようになったSNS
この事件以来、FacebookやTwitterなどのSNSは、リベラル派の政治家を恐れて自主的に検閲を行うようになった。「偽情報」を取り締まるという名目だが、何が偽情報であるかどうかを誰が決めるのかという問題には誰も答えなかった。
リベラル派の政治家がそれを決めるのか? それとも彼らの息の掛かった大手メディアがそれをやるのか? だがそうした検閲に人々は嫌気がさしたから、イギリスはEUを離脱し、政治家たちが必死に擁護しているウクライナ政権も支持を失いつつあるのではないか。
アクティビスト、アイカーン氏
だがアイカーン氏がTwitterを批判するのは、もっと単純な理由である。彼は次のように述べる。
ここで政治の話をするつもりはない。言論の自由は極めて重要だと信じているが、検閲が必要になる特定の場面もあるかもしれない。
しかし特定の企業の従業員が、その肩書きがCEOであれ何であれ、政治的な好き嫌いを理由に検閲をするようなことはあってはならない。
人々が忘れがちであるのは、会社の社員が、それがCEOであっても、雇われに過ぎないということである。
そして彼らを雇っているのは株主である。経営者であってもその人物自身が株主でない限り、すべての従業員は本来株主に雇われて与えられた仕事をこなすべき労働者に過ぎない。
だが彼らは何をやっていたのか? 「Twitterが誰々のアカウントを停止した」と言ったとき、まるで大企業が自分で自分の客を選んでいて、大企業にはその権限があるかのように見える。
だが大企業とは本来は株主のことである。雇い主である株主が望んでいないにもかかわらず、社員は自分の勝手な政治的都合で客を選り好みし、権力ある検閲者のように振る舞っていたということである。
それは、株主として経営者を含む従業員の不正と日々戦っているアクティビストのアイカーン氏によれば、政治以前の問題である。だから彼は次のように言う。
わたしはTwitter株を買っていた。マスク氏が何らかの理由でそれをやらなければ、わたしが経営権争奪のために動いていただろう。
そしてTwitterの社員の半分がいまやクビになっている。いきなりクビになって文句を言っている人々が大勢居るようだが、仮にマスク氏がそれをやらなかったとしても、彼らはどちらにせよクビになっていた可能性が高そうだ。後にアイカーン氏が控えているからである。
いずれにせよ検閲の時代は終わった。馬鹿たちは2016年以前の古い方法でいまだに検閲を行なっているが、彼らはもはや道化か何かにしか見えない。
馬鹿を正すのはいつも金融市場なのである。