アメリカのGDP統計が発表され、7-9月期のアメリカの実質GDP成長率は1.8%(前年同期比、以下同じ)となり、前期の1.8%から横ばいとなった。
悪くなかった第3四半期GDP
前年同期比の成長率としては横ばいなのだが、実質GDPの数字そのもの(成長率ではない)のチャートを見るとなかなか悪くない結果であることが分かる。
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インフレで国内経済は明らかに疲弊しているだろうに何故こうなっているのかは、いつも通り内訳を見てゆけば分かる。
個人消費
まずは個人消費から見てゆこう。実質個人消費は2.0%の成長となり、前回の2.4%から減速した。
チャートは以下のようになっており(個人消費だけは月次チャートである)、絶対値で見れば高い水準が続いているのだが、インフレが続く中でアメリカ人の消費意欲が陰りかけていると見るべきだろうか。
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アメリカ人は高い物価でも来年更に高くなるのであれば先に買い込んだほうが得だと見て、これまで高い消費を維持してきた。
だがインフレ率が長らく8%台から上に行く素振りを見せていない現状では、買い込みの動きも鈍ってくる。
そうした動きの初動が反映されての今回の結果なのかもしれない。個人消費は月次データなので、次回どうなるかに注目したいところである。
投資
次は投資である。実質国内民間総投資は2.3%の成長となり、前回の7.2%から急減速した。
チャートを見ると、絶対値で見ても絶賛下落中であることが分かる。
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原因は明らかにFed(連邦準備制度)の金融引き締めによる金利上昇である。アメリカの長期金利は次のように推移している。
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長期金利が4%まで上がった状況では企業はお金を借りて設備投資を行うことも容易にはできない。インフレ率はそれほど簡単に下がってはくれないことから長期金利も高止まりすると思われ、投資の軟調は来年まで続くトレンドとなるだろう。
政府支出・投資
次は政府支出である。実質政府支出・投資は-0.6%の減少となり、前回の-1.3%からやや持ち直した。
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11月の中間選挙に向けてのバイデン大統領の悪あがきだろうか。しかし財政出動はやり過ぎるとインフレを悪化させる。GDPの中で政府が唯一直接操作できるこの項目も、インフレ下では自由には触れないのである。
輸出入
さて最後に輸出入だが、ここまで大して良いデータがなかった以上、良かった数字はこれしかない。実質純輸出は驚くべき急回復を見せている。
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貿易赤字が多額なのは変わらないのだが、このV字回復を可能にしたものは何か。
これこそが今回のGDP統計を押し上げた要因である。消費は減速し、投資は減少し、政府支出がやや持ち直して、それだけでは全体で1.8%の成長を確保できなかったはずだ。
それを可能にした純輸出のV字回復の原因は何か。それは原油である。
ロシアによるウクライナ侵攻後、アメリカはロシア産の原油の禁輸という完全に無意味な経済制裁を世界中の国に強要し、それに従わない国を制裁で脅す素振りさえ見せた。
それで他の国がロシアから原油を買わなくなった後、アメリカがどうしたかと言えば、自分でそれらの国に原油を売っているのである。
それで2022年のアメリカの原油輸出は激増している。それが自業自得のインフレで死にかけているアメリカ経済を何とか支えている。
それにしてもウクライナとは本当に便利な国である。バイデン氏はオバマ政権で副大統領だった頃からウクライナを良いように使っていたが、今ほど2014年にウクライナに親米政権を据えておいて良かったとバイデン氏が思っている瞬間はないのではないか。
結論
その犠牲者はウクライナ政権を除くウクライナ国民とロシア、そしてヨーロッパ人である。ヨーロッパ人のエネルギー危機と食糧危機は、半分は自業自得なのだが。
アメリカ経済はまだ何とか持ちこたえている。投資はもう駄目のようだ。消費が減速してきたことは言及に値する。
原油の輸出も、原油価格が下がっている現状ではこれからは危ういかもしれない。
やはり2023年リセッションだろうか。しかしもはや厳密なタイミングはどうでも良いのである。