ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを運用したことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏がCNBCのインタビューでFed(連邦準備制度)の金融政策とインフレの行方について語っている。
ドラッケンミラー氏のFedの評価
パウエル議長がインフレを完全無視していた去年、ここで取り上げている著名投資家は皆パウエル氏を批判していた。
しかしそこからFedが強力な金融引き締めに方向転換して以来、彼らの金融政策への評価は少なくとも批判一辺倒ではなくなっている。
例えば債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏とスコット・マイナード氏は、揃ってFedの金融引き締めがむしろやり過ぎだと発言している。
一方で経済学者のラリー・サマーズ氏は今市場に織り込まれている今後の利上げをやり切って丁度ぐらいだろうと主張している。
ドラッケンミラー氏はどうだろうか。彼は次のように述べている。
今のところ、Fedの言っていることを気に入っている。彼らが仕事をやり切ることを期待する。彼らは大きな失敗を犯したが、ようやく正しい方向に行っているようだ。
これでインフレは収まるのだろうか。しかしドラッケンミラー氏はそこまで楽観しているわけではない。彼は次のように付け加える。
だが労働市場が強い状態で中央銀行が正しい方向に行くことは簡単だ。ハードランディングになれば彼らはどうするか見てみよう。彼らが銃撃を止めなければ良いのだが。
問題はそこである。
インフレが本当に恐ろしいのは、インフレ抑制のための金融引き締めが実体経済にダメージを与え、経済が不況に陥ってもインフレが収まっていない限り引き締めを続けなければならないことである。
1970年代の物価高騰
それをやった事例がアメリカ史上に存在する。1970年代の物価高騰とその後始末である。
ドラッケンミラー氏はこう語る。
1970年代のインフレは酷かった。龍は退治されなければならない。
1970年代には実際に龍退治が行われた。当時のFedの議長だったポール・ボルカー氏はそれを最後までやり切り、そして大統領とともに職を失った。
インフレ抑制のための金融引き締めが記録的な失業率を引き起こしたからである。
まだ何も始まっていない
だが今はどうだろうか。金融引き締めは始まったがまだその影響は実体経済にまでは届いていない。原油価格は下がり、住宅価格も落ち着いた。
しかし賃金インフレには少しの影響も与えているようには見えない。だが賃金はサービス業の主なコストであるため、そこまで行かなければインフレ率は2%には戻らない一方で、賃金を抑えれば労働者が失業や減給に苦しむことになる。
だからドラッケンミラー氏は、労働者がまだ苦しみ始めていない間は金融引き締めを継続できるのも当たり前であり、本当の問題は賃金インフレを抑え始めて人々から怨嗟の声が出始めてもパウエル議長が引き締めを継続できるかどうかだと言っているのである。
結論
このことについては、筆者とジム・ロジャーズ氏がメインシナリオと思うものについて以下の記事に書いておいた。
しかし一方でドラッケンミラー氏はパウエル氏が本当にやり切ってしまうシナリオについても考慮しておくべきだと以下の記事で述べていた。
そしてどちらのケースでも株式市場はかなり悲惨な状況になる。詳細はこれらの記事を参照してもらいたいが、実際にはどうなるだろうか。