ドラッケンミラー氏: プーチン氏が引き起こしたわけではないインフレの本当の理由

ジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドを率いたことで有名なスタンレー・ドラッケンミラー氏が、CNBCのインタビューで2022年の物価高騰の原因と、インフレの今後の見通しについて語っている。

インフレとウクライナ情勢

今年のインフレの原因は何だろうか。日本ではウクライナ情勢よりも円安が注目されており、最近ようやくインフレの原因としてはまともな要因が挙げられ始めてきたと感じている。

ちなみに円安は日銀が引き起こしており、彼らには国民を犠牲にしてでも金融緩和を継続する理由がある。

そしてインフレの要因として、(金融メディアの記者を含む)何も知らない素人たちによって挙げられるのが、ロシアによるウクライナ侵攻である。

2021年からインフレを警告していたドラッケンミラーは、このことについて次のように語っている。

多くの人々がインフレはプーチン氏が引き起こしたと主張している。彼は確かにインフレを延長したが、1つ言っても良いだろうか? 彼がウクライナに侵攻する前、インフレ率は既に前年同月比で7%だった。

アメリカのインフレ率のチャートを掲載しよう。そしてこのチャートの内、何処が2022年2月末のロシアのウクライナ侵攻かどうか考えてみると良い。

ちなみに今のアメリカのインフレ率は8%である。

インフレの本当の原因

では物価高騰の原因は何だったのか。ドラッケンミラー氏は去年からFed(連邦準備制度)の金融政策を公の場で批判していた。彼は去年の状況を次のように振り返っている。

わたしが去年立てた新年の抱負は、テレビに出ないことだった。だが当時の状況を見た時、居てもたってもいられなくなった。

わたしの目には、Fedは考えられないようなリスクを取っているように見えた。だが何のために? 当時、インフレ率は1.7%だった。そしてFedは毎月1,200億ドルの量的緩和を行なっていた。

中央銀行のインフレ目標は2%だから、残り0.3%のために毎月1,200億ドルをばら撒いていたわけである。

だがFedのパウエル議長の奇行はそこで止まらなかった。Fedはインフレ率が2%どころか5%を超えて上がって行っても莫大な紙幣印刷を続けていた。

ここでは量的緩和だけをやり玉に挙げているが、物価高騰の直接の実行犯は現金給付である。アメリカで3回行われた現金給付によって跳ね上がった個人所得がインフレを跳ね上げた様子は、2つのチャートを並べてみればすぐに分かる。

このことについてドラッケンミラー氏は次のようにコメントしている。

確かに中央銀行だけが原因ではない。財政刺激も大きな原因だった。だが客観的事実として、中央銀行がなければ財政刺激は出来なかった。

中央銀行による低金利がなければ、政府は莫大な借金を積み上げることも出来ず、東京五輪やGO TOトラベルやその他すべての馬鹿げたばら撒きを行うことも出来なかっただろう。

だが中央銀行のトップを政府が選ぶ以上、彼らがグルであるのは当たり前であり、また国民ではなく票田と自分自身の利益を考えて行動する政治家がその予算で好きなようにやるのは当然のことだろう。

今後のインフレ動向

筆者を含めまともな投資家は誰でもそうだったが、去年からインフレを警告し政府を非難してきたドラッケンミラー氏は半笑いで次のように語る。

現在のインフレはわたしがこれまで行なった予想の中で特段優れたものだったとは思わない。大規模な財政刺激、大規模な金融刺激、そして当時インフレは既に始まっていた。何故それで政策が原因ではないと思えるんだ?

著名投資家は誰もが同じことを言っている。

しかしアメリカでも日本でも未だにインフレの原因を正しく認識している人さえ少数派なのだからもう笑うしかない。そして彼らはいまだに政府から紙幣が降ってくるのを待っている。だが彼らに降ってくるのはインフレである。自分が望んだものを有難く受け取るといい。

さて、アメリカの金融引き締めで原油価格が下落したことによって、短期的にはインフレには減速の兆しが表れている。

だがそれでインフレは本当に終幕となるのだろうか。ドラッケンミラー氏は次のように言う。

1970年代の経験によれば、一度起こったインフレは繰り返す。去年の夏には誰もが中古車価格が下がるとか、別のものが上がるとか、そういうことを喋っていたが、そういう問題ではない。

インフレの原因が現金給付であるとすれば、少なくとも去年のような規模の現金給付がもう一度行われない限り、インフレは収まると考えて良いのだろうか。

だがドラッケンミラー氏はインフレがより長く持続する理由を次のように説明している。

例えばイギリスの労働組合だ。彼らが春の賃金交渉で「5年物のフォワード金利が2.3%だから2.3%の賃金上昇ということにしよう」とでも言うだろうか? そんなわけはない。彼らは現実の世界の労働者だ。彼らはインフレにより3年間で24%を失っている。

消費者がそれだけの購買力を失った場合、それは賃金交渉に表れてくる。

そしてそうなれば会社は賃金を上げなくてはならなくなり、それはその会社の顧客が負担することになる。このようにしてインフレは自己強化する。

そこがインフレの厄介なところである。インフレは一度起こってしまえば自分自身を原因として更なるインフレスパイラルを引き起こしてゆく。

だから1970年代に始まる物価高騰時代の終わりにFedの議長を務めたボルカー氏は、インフレを終わらせるために経済を犠牲にせざるを得なかったのである。

まだ不況にさえ陥っていない状況でインフレが収まるかどうか話し合うことがどれだけ馬鹿げたことかが分かるだろう。ドラッケンミラー氏は次のように纏めている。

それが現在の問題であり、中央銀行が自分のバブル生成・崩壊政策によって引き起こした状況だ。

未だにバブル崩壊政策を続けている日本は何処に行くのだろうか。