チューダー・ジョーンズ氏: 2020年代は財政規律が勝利する時代

1987年のブラックマンデーを予想したことで有名な投資家のポール・チューダー・ジョーンズ氏がCNBCのインタビューで、低金利と緩和の時代の終わりとその後の経済見通しについて語っている。

アメリカ経済を振り返る

ジョーンズ氏はインフレ悪化を去年の内から警告していた著名投資家の1人である。

政治家や中央銀行家が去年インフレを意図的に無視し、後でロシアに責任を押し付けた一方で、優秀なファンドマネージャー誰もが物価高騰を警告していた。

だが物価高騰は起こってしまった。インフレが起これば金融緩和が出来ないので、もう何年も続いてきた低金利で資産価格バブルの時代は終わり、新しい時代が始まる。

ジョーンズ氏はこれまでのアメリカ経済の移り変わりを次のように振り返る。

これまでの経済史を10年ごとに振り返ってみれば、1970年代はインフレの時代、80年代はバブルとその崩壊、ドルが乱高下した時代、90年代はベンチャー企業の上場とドットコムバブルの時代、2000年代は不動産バブルとリーマンショックの時代、2010年代はグローバル化の終焉と、あとは恐らく中央銀行による金融政策実験の終焉の時代だろう。

70年代にはアメリカでは物価高騰とそれに伴う株価暴落が起こった。

80年代はレーガノミクスの時代であり、1985年のプラザ合意と1987年のルーブル合意におけるドルの為替レートの操作と、その失敗が1987年のブラックマンデー(ジョーンズ氏はこれを予想して有名になった)をもたらした。

90年代はMicrosoftなどのIT企業が隆盛した時代であり、株式市場では名前に「.com」が付いてさえいればIT企業でなくとも株価が高騰した。米国株であれば何でも買われた2021年の相場に似てはいないか。

2000年代は言わずもがなリーマンショックの時代である。ここから中央銀行による本格的な紙幣印刷が始まった。

そして2010年代、ジョーンズ氏の言葉で言えば、中央銀行は金融政策で実験を繰り返し、リフレ派は現金をばら撒けば人々が豊かになると説いた。そしてその結果は2020年代においてわれわれを待っている。

これからの世界経済

では2020年代はどういう時代になるのか? ジョーンズ氏は次のように予想している。

2020年代は、申し訳ないが、国ごとの負債の状況や財政赤字に人々が注目し、人々が通貨の長期的価値を信じられるような財政政策を行わなければならなくなる時代になるだろう。

何故そう言えるのか? 低金利の時代が終わったからである。

日本やアメリカの政府が無尽蔵に負債を増やし続けられたのは何故か? 金利がゼロだったからである。金利がゼロであれば、借金の期限が来てももう一度借金をして期限を伸ばせば良い。その間に払わなければならないペナルティはゼロである。

だから誰もが借金を増やし続けた。リフレ派は「インフレが起こらない限りばら撒きは問題ない」と言い続けた。そしてどうなったか? インフレが起きた。

ジョーンズ氏は次のように振り返っている。

過去12年間に生じた問題は、われわれが金融政策で金利を低位に保つ壮大な実験を行なってしまったということだ。

そしてコロナ禍では財政政策においても壮大な実験が行われてしまった。

何故お金をばら撒けばインフレになるという子供でも分かる理屈が誰にも分からなかったのか。

いずれにせよその時代はインフレとともに終わりを告げた。ジョーンズ氏は次のように続ける。

わたしの予想では、2020年代はその真逆の状況が待っている。アメリカの中央銀行は既にそれを行なっている。

アメリカは物価高騰を抑えるために強力な金融引き締め政策を余儀なくされており、結果として金利は高騰、株価は暴落している。

だがジョーンズ氏によれば、これは始まりに過ぎないという。これはコロナ禍に始まった長期トレンドなのだ。ジョーンズ氏は次のように続ける。

2024年の大統領選挙で誰が大統領になるにしても、この切迫した債務の状況に対処することになる。

債務状況が切迫してしまっているために、次の大統領は支出を切り詰めざるを得ない。

あるいは切り詰めないことも出来るだろう。だが財政を切り詰めない国に対し、金融市場は容赦なく襲いかかるだろう。ジョーンズ氏はこう続ける。

切り詰めなければどうなるか? 2010年代は人工的な低金利の時代だったが、2020年代はその真逆になる。債券の金利は期間が長いものほど上がり、株式にも同じ現象が見られる。これまでの10年で見てきたものとは真逆の現象だ。

もはや中央銀行は金利を押さえつけることが出来ない。金利を押さえれば物価が高騰する。金利を抑えなければ高金利で経済が死ぬ。それが1980年代から始まった低金利政策の結果である。

前にも言ったが、われわれは1980年から2020年をバブルにするために2020年から2060年を犠牲にした。そしてこれからは地獄の数十年が待っているだろう。

結論

この新たなトレンドを体現している国がある。日本とイギリスである。イギリスではトラス新政権がインフレ対策でばら撒き政策を発表し(少しでも経済が分かる人間には意味不明である)、ポンドと英国債は急落した。

そして日本ではインフレが起こっているにもかかわらず日銀が怒涛の勢いで紙幣を刷り、円が暴落している。

ちなみに日本円はタイバーツやインドネシアルピアなどに対しても暴落している。近隣窮乏化政策ならぬセルフ窮乏化政策である。

愚かな日銀のお陰で日本経済は自殺している。遠くない未来に安い物価を求め、東南アジアから人々が日本に押し寄せることになるだろう。海外から見て激安の労働力であるところの日本人は海外企業に良いように使われ、貧しい日本人に対して恩情的な労働条件を提示することはフェアトレードと呼ばれることになる。そして貧しい日本の子供たちは、裕福な東南アジアの旅行客に小銭をねだることになる。それが黒田氏の目指す日本である。

だが素晴らしいではないか。筆者は実はこの新しい時代を非常に気に入っている。要するに2020年代は馬鹿が勝手に滅んでゆく世界である。日本人の大半はインフレに放火する政策を喜んでいる。

そして脱炭素政策とロシア制裁で、資源を生産することも輸入することもなくエネルギーや食料を確保できるという、凡人には不可能な未来予想に賭けたヨーロッパ人は、今や風呂に入らずバッタを食べる生活を目指している。

こんな素晴らしい世界はなかなかないと筆者は考えている。一方でインフレ対策を行うまともな中央銀行を持った国民は、単に預金するだけでインフレを避けられるだろう。投資家はそういう国に賭けるべきである。

国民が馬鹿かどうかで今後10年の明暗が確定する。果たして多くの人々は「お金が降ってきてうれしい」以上の知性を持ち合わせているのだろうか。多分ないだろう。楽しみに結果を待ちたい。