サマーズ氏: イギリスのばら撒きは危機創造のお手本、問題はまだ終わっていない

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで、イギリスのトラス政権の経済政策でポンドと英国債が急落した件について引き続き語っているので紹介したい。

イギリス新政権の混乱

日本でも円安が止まらないことが話題になっているが、イギリスではトラス新首相がクワーテング財務相とともにインフレ対策のばら撒き政策を発表し、ポンドと英国債が急落していた。

政策には法人減税や家庭の光熱費を補填することで価格に上限を設ける政策などが含まれており、当然財源などないことから金融市場が大荒れになったのである。ちなみにクワーテング氏は光熱費に上限を設ける政策では半年に600億ポンドが費やされると主張していた。

イギリスではインフレ率が10%に近づいている状況下で、半年でイギリスGDPの3%ほどがばら撒かれ、しかも彼らはそれが2年続くと主張している。国債が暴落したのも当然である。

ちなみに新政権はこの予算案を「ミニ予算」と呼んでいる。皮肉の本場であるイギリスの政治家は自分の予算案にもそれを惜しまないらしい。

この「ミニ予算」による混乱は、イングランド銀行が短期的に国債を買い支えることで問題が保留されている。買い入れ期限は今週金曜で、ベイリー総裁はその間にトラス新政権に方向転換を促した形だが、あろうことか英国債に放火した張本人であるところのクワーテング氏は、買い支え終了で問題が生じれば「ベイリー総裁の責任」だと言い放った。

クワーテング財務相を解任

結局この問題はどう進展したか? トラス首相はクワーテング財務相を解任した。イングランド銀行による緊急買い入れは金曜日で終了したが、来週から市場がどう動くかは不透明である。

トラス首相は市場の言葉を聞いたとして、法人減税を撤回したが、筆者の意見では問題はそこではない。サマーズ氏はどう考えているか? 彼は次のように述べている。

これは危機創造の見本のようなケースであり、恐らく危機対応の失敗の見本へと進化するだろう。

「ミニ予算」はまだ実行されていないが、国債が暴落した時点で危機は既に発生しており、しかもトラス政権はその対応にも失敗するだろうとサマーズ氏は言っているのである。

筆者の見解では最大の問題は明らかに半年でGDP3%に及ぶ光熱費への上限設定である。インフレで政府がこうした政策を持ち出して問題を引き起こすことは去年1月の記事で既に書いておいた。

残念ながら、すべて事前のシナリオ通りである。

サマーズ氏は危機がまだ終わっていないとして、次のように述べている。

現時点が野球で言えば9回中7回であるとすれば驚きだろう。

来週以降の動向

問題は来週以降どうなるかである。サマーズ氏はイングランド銀行が国債買い入れに期限を設定したのは失敗だったとして、次のように述べている。

軍事介入をする時には、いつまでに撤退するかを表明するべきではない。そうしてしまえば敵を調子付かせてしまうからだ。

だが恐らく期限を切らなければトラス氏は何も決断しなかっただろう。ここで再びいつものフレーズを言わなければならないが、馬鹿は殴られるまで理解しない。イングランド銀行が永久に国債を買い支えると言えば、トラス氏とクワーテング氏は「ミニ予算」を実行し、インフレ下で緩和を行ない続けて通貨安が止まらなくなっている何処かの国のようになっていただろう。

クワーテング氏の後任にはテリーザ・メイ政権で外相を務めたジェレミー・ハント氏が就任し、次のように比較的まともなことを言っている。

人々や市場が望んでいるもの、イギリスが今必要としているものは、安定だ。

金融市場をコントロールできる財務相はいない。だがわたしにできることは、われわれが自分たちの財政政策を賄えること、そして支出と課税の両方についていくらかの非常に難しい決断をしなければならないことを示すことだ。

ハント氏はこのように財政支出だけではなく政府の収入の方にも取り組むと表明している。

結論

だがハント氏の意向がそうだとしても、元々無茶苦茶な財政プランを示していたトラス首相が突如まともな経済政策を行ない始めるとは考えがたい。光熱費制限はどうなるのか。そもそもトラス氏の支持率は地を這っており、首相を続けられるのかも不透明である。

このように非常に混沌としているイギリスの状況だが、唯一の救いは意図的に自国通貨を暴落させた首相の支持率が低いことではないか。

何処かの国ではインフレに放火する政党が大きな支持を得たままでいる。イギリスと日本の民度の差だろう。