10月13日、9月のアメリカのCPI(消費者物価指数)が発表され、インフレ率は8.2%(前年同月比)の上昇となった。
8%台のインフレ続く
まずはいつも通りグラフを見てみたい。
アメリカのインフレ率は今年の3月から8%台で横ばいとなっている。ロシアのウクライナ侵攻が2月末だから、ウクライナ情勢が物価に大きく影響したという大手メディアのデマを信じれば、きっとロシアがインフレを食い止めてくれたのだろう。
冗談はさておき、インフレ率が足踏みしている理由は、アメリカ政府の財政支出の弾切れである。現金給付で無理矢理押し上げられたGDPと物価だが、それは2021年で終わっているので、GDPも物価も宙に浮いている。
それはCPIの内訳を見てみればよく分かる。CPIの内訳については、エネルギーや食品など、金融市場の影響を受けやすい品目はインフレ減速になり、住宅は次第にピークを迎え、賃金インフレは最後まで粘着するという見通しをここでは繰り返し述べてきた。
エネルギー
まずはエネルギーだが、先に原油価格のチャートを掲載しよう。
インフレ抑制のために行われているアメリカの金融引き締めのため、原油価格はここ半年ほど下がっている。
農作物など他のコモディティ銘柄も同じであり、その影響がそろそろ出るだろうと踏んでいたのだが、CPIのエネルギーの品目のインフレ率を見る限り、それは正しかったようである。
やはりインフレが減速している。
住宅
一方で住宅のインフレ率はいまだに加速している。
住宅市場の状況については、経済学者のラリー・サマーズ氏らがCPIへの反映が遅れていると指摘していた。
実際には住宅市場は既にかなり上がった後、減速の兆候を示している。それが反映されるまでCPIの住宅の項目は数ヶ月から半年ほど上がり続けるかもしれないが、利上げによって住宅ローン金利がかなり上がった今、住宅市場はダメージを受けているはずであり、CPIにそれが現れるのも時間の問題である。
サービス
さて、最後にかなり急激なインフレ加速となっているのがエネルギー関連除くサービスである。チャートは以下のようになっている。
かなり急な上昇チャートである。
サービス業の原価の多くを占めているのは賃金であり、労働市場のインフレが一番色濃く出る項目である。企業にとって商品価格の上げ下げよりも給与の上げ下げの方が難しいため、賃金のインフレは上がりにくく下がりにくい。
そして中央銀行の金融引き締めが効きにくい項目でもある。
恐らく現在のインフレがピークを迎える(あるいは迎えている)としても、最後まで残るのはこのサービス価格のインフレだろう。
今後のインフレ率の推移
ということで、内訳については筆者の予想通りにほぼ進んでいることが分かった。8%台で足踏みを続ける全体の数字も、エネルギーは減速しサービスは加速するという状況を表したもので、インフレの推移は想定通りに進んでいる。
住宅インフレはCPIの数字の上ではまだ進んでいるが、住宅ローン金利が既にかなり上がっているため、加速は続くとしても長くとも半年だろう。
そして住宅価格がピークを迎えれば、やはりインフレ率がこれ以上上がってゆくのは難しいだろう。長期的には8%台から落ちてゆくと予想しているが、問題は何処で止まるかである。
それを考えるには、上記の前年同月比のチャートではなく、ここ数ヶ月のインフレが実際にどうなっているかが分かる前月比年率でインフレ率を見てみれば良い。
まずはインフレ率ではなくCPIの数字自体のチャートを載せるが、6月以降傾きがなだらかになっていることが分かる。
このなだらかな動きが1年続けばどのくらいのインフレ率になるかということを、前月比年率の数字は教えてくれる。前月比年率とは、1ヶ月の数字の変化が仮に1年続けばいくらの変化率になるかという意味である。そのチャートは次のようになっている。
9月の前月比年率のインフレ率は4.6%なので、9月のインフレの速度が1年間続けば4.6%のインフレになることになる。
この前月比年率の数字がこれから数ヶ月で何処に落ち着くのかということが今後の長期的なインフレ率を決めるだろう。だが、エネルギーの下落を受けても4%台ということは、やはりインフレ率が4%台より下に落ち着くことはなさそうだ。問題は5%なのか、6%なのか、7%なのか、あるいはもしかすれば8%で高止まりするのかいうことだろう。
結論
ちなみに今回のCPIの発表を受け、木曜日の米国株は大きく下落して始まった後、大きく上昇して引けを迎えた。
だが読者もこの記事を読んで分かる通り、今回のCPI統計で株式市場が喜ぶ理由も悲しむ理由も特に無かった。発表前から分かっていたように、高金利が長期間続くことはどう考えても避けがたく、株価は長期的な下落トレンドを継続せざるを得ない。
ちなみに金利先物市場は、今回の数字を見て11月の利上げ幅を0.75%でほぼ確定と予想している。政策金利は来月4%となる。来年のアメリカ経済が楽しみになってくる数字である。