世界最大のヘッジファンド、インフレから身を守るために何に投資すべきか語る

世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏が、Greenwich Economic Forumでドル高とインフレ、そして投資家がインフレから身を守る方法について語っている。

アメリカのインフレとドル高

インフレは2020年にアメリカで始まった。それが2021年にはヨーロッパに波及し、2022年には日本にも波及した。何度も言っているが、ウクライナ情勢はヨーロッパの天然ガス価格を除き、今のインフレとはほとんど何の関係もない。

だが興味深いのは、アメリカで8%ものインフレになっている状況でドルが上がっていることだ。

インフレとは紙幣の価値が減ることである。同じ1万円札で同じものが買えなくなることである。

だから普通に考えれば、インフレでドルは下落するはずである。しかしドルは上昇し、他の通貨は下落している。日本円だけでなく、イギリスでは新政権のばら撒き政策によるポンドの暴落を阻止するべく中央銀行が悪戦苦闘している。

この状況をどう説明するかと聞かれて、ダリオ氏は次のように答えている。

あまりドルの価値を他の通貨との関係で計るべきではない。通貨はどれも駄目だ。

他の通貨に対してドルが上がっている理由を説明するためには、何故ユーロが駄目か、何故円が駄目かを逐一説明する必要がある。

何故ユーロは駄目か

そしてダリオ氏は個別の事例について話し始める。

ドルに対してユーロが下がっている理由が分からない? それは冗談なのか?

ヨーロッパはウクライナ情勢における対ロシア経済制裁でエネルギー危機や食糧危機に陥っている。

ロシアからの輸入を止めたことが理由だが、ロシアの方は原油などを中国やインドやブラジルやハンガリーなどに問題なく販売しており、大した影響を受けていない。

ウクライナを犠牲に2014年にアメリカが始めた対ロシア戦争に参加する国々が勝手に滅んでゆく。良いことではないか。

何故円は駄目か

ダリオ氏は次にドル高円安についてこう述べている。

円はどうなっている? 彼らはまだ紙幣印刷をしている。

一言で終わりである。いや、実は日銀は円のばら撒き一辺倒ではない。最近、日銀は財務省の指示でドル売り円買いの為替介入を行なった。

為替介入とはドルを売って市場から円を回収することである。つまり、日銀は一方では量的緩和で円をばら撒きながら、為替介入では円を回収しているということになる。

経済学者ラリー・サマーズ氏はこれを1人綱引きと呼んでいる。

ということで、どの通貨もまともな状況でないことが明らかになった。ダリオ氏は次のように言っている。

どの通貨も購買力という点で下落している。1930年代や70年代のように、どの通貨も同じ金額を払って何を買えるかという点では価値が落ちている。だが他の通貨に対してある通貨が上下したということを見始めると、購買力低下という事実を見落としてしまう。

インフレ対策になる資産

だから問題は、ダリオ氏の言う通り次のようなことになる。

では何が富の貯蓄手段となるのか? それがこの時代の、少なくとも今後10年間の大問題となる。

インフレで資産が実質的に目減りするならば、国民はどうすれば良いのか? インフレターゲットでインフレを意図的に引き起こす政府を選ばなければ良かったのだが、少なくとも日本人にはそれが出来ないらしい。

だからダリオ氏は親切にも次善の策として、紙幣以外に買える資産を色々提示してくれている。

こういう状況では、インフレをヘッジできる資産が魅力的になる。債券で考えるならば、インフレ連動国債のようなインフレヘッジ債が良いだろう。

インフレヘッジ債とは、金利に加えてインフレによる減価分を補ってくれる債券である。

つまり、金利が1%でインフレ率が5%ならば、合計で6%が返ってくる債券ということになる。

幸いにも、今ならアメリカの10年物インフレ連動国債の金利は1.78%であり、インフレ率分の補助を貰った上で10年間それだけの金利が受け取れるということである。

アメリカ人のインフレ対策としてはこれで十分だろう。そして日本人にとっても、少なくとも米国株に賭けるよりは良いはずである。

利上げが十分に行われた現状、アメリカでは金利収入をインフレ対策にする方法が十分に機能し始めている。

そもそも中央銀行がインフレに合わせて利上げをすれば、預金金利は十分にインフレに付いていくので、そもそもインフレは預金者にとって大した問題ではないということを以下の記事に書いておいた。

日本国民がインフレに苦しんでいるのは、日銀が利上げをしないからである。

将来消費するものにお金を使う

また、ダリオ氏は消費者にもっと単純なインフレ対策を教えている。彼は次のように述べている。

わたしが富の貯蓄を考えるならば、どう貯蓄するだろう? 自分にこれから必要となるものを選びたい。

例えば自分の家だ。あるいは子供の教育にお金を賭けるだろう。あるいは食料備蓄かもしれない。健康保険でもいい。将来必要になるものを先に買っておくということだ。

インフレとはこれから物価が高くなるということなので、ダリオ氏の言っていることは至極当然である。

特に教育は盲点になりやすい有効なインフレ対策である。日本人にも自分の教育にお金をかけるインフレ対策が人気らしい。人々は寝てても儲かる方法を探し求めてインデックス投資にのめり込み、寝てても儲かる方法などないという大切な学びを得ている。

今年、筆者は多くの人にインフレ対策で何に投資をすれば良いかと聞かれ、ダリオ氏と同じことを答えておいた。だが将来の消費を先に行うという詰まらないインフレ対策に彼らは不満で、彼らの多くは筆者が空売りしている米国株の暴落相場に飛び込んでいった。

何故人々はわざわざ自分からお金を失おうとするのだろうか。セルフインフレである。

インフレの世界で勝利する国

また、ダリオ氏は投資先にしても居住地にしても国を選ぶことが重要だと言っている。彼は次のように述べている。

収入以上に支出しておらず、負債以上の資産を持っており、国民間の対立が少ない国は何処か?

紙幣のばら撒きがインフレを引き起こしたのだから、それをやらない国に行かなければ共倒れになる。

意外にも、少なくとも日本はこの3つの条件のうち2つを満たしている。日本の莫大な政府債務はGDPの200%だが、国民の資産を税金として没収することで解消されるので対外的には問題ない。そして日本国民はこうした状況を対立することなく支持している。惜しいではないか。最初の条件だけを満たしていない。

どの国がすべての条件に当てはまるだろうか。筆者の知る限り、この条件に限りなく近い国の1つはスイスである。

スイスは元々低税率・財政黒字の国で、コロナ後には流石に財政赤字を出したが、来年には黒字に戻る予定である。

筆者はユーロを空売りしてスイスフランを買っている。

また、ダリオ氏は戦争に巻き込まれそうな国を避けることを薦めている。日本は駄目だ。NATOの対ロシア戦争に積極的に参加している。今後東西の対立が激しくなれば、何処かのタイミングで誰かから撃たれても文句は言えない。

では何処が良いだろうか? 太平洋の島国にでも逃げるべきだろうか? だがジム・ロジャーズ氏は、第2次世界大戦を予期して事前に太平洋の島国に逃げていたフランス人がどうなったかについて以下の記事で語っていた。

政治家が引き起こし、有権者が支持したインフレと戦争の世界で生きていくのはなかなか大変なことらしい。