アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューで引き続き日本の斬新な為替政策を皮肉っているので紹介したい。
半笑いのサマーズ氏
イギリスのトラス首相がインフレ対策でばら撒きを行うと宣言して英国債とポンドが急落した件も含め、最近の金融市場では面白いことが起こっている。
政治家や有権者は、お金をばら撒けばインフレになるという12才児でも分かる理屈がいまだに分からないらしい。
こうした状況を受け、サマーズ氏は半笑いで次のように言っている。
わたしは最近、毎朝普段より早めに起きてBloombergを見ることにしている。イギリスでの騒動や、イタリアの政治が興味深いからだ。
サマーズ氏は2021年からインフレの脅威を警告してきた。いまだに現在のインフレを2022年のウクライナ情勢が原因だと信じ込んでいる人々が、2021年のサマーズ氏の警告を一切聞かなかったのも当然である。
しかし2022年のウクライナ情勢がインフレの原因ならば、何故サマーズ氏は2021年にインフレを警告できたのか? 少し考えればおかしいと分かるこの簡単なパズルが馬鹿には難しすぎるらしい。
だがイギリスの状況も少なくともサマーズ氏に朝の娯楽を提供する程度には役に立っているようである。良いことではないか。
最近、政治には面白いニュースが多い。ドイツやEUもそれに貢献している。戦争など暗いニュースが多いなか、少しでも人々を楽しませようというヨーロッパ的な心遣いである。
自分たちを文化の中心地だと思っている人々のやることは一味違う。
日本の為替介入
しかしサマーズ氏によれば、彼に一番の楽しみを提供しているのは日本らしい。
日本では、アメリカが金融引き締めをする中、紙幣を印刷してイールドカーブ(長短金利を並べた曲線)を低位に維持する量的緩和政策を行なっているため大幅な円安となっており、国内から円安に不満の声が出始めたため為替介入を行なった。
この件はサマーズ氏をなかなか楽しませているらしい。彼は楽しそうに次のように述べる。
そして何より皆日本に注目すべきだと思う。日本では日本人が物凄いことをやっている。
彼らは通貨の下落を防ぐため、200億ドルの為替介入によって円の流動性を減らす一方で、他方では国債を市場から買い上げてイールドカーブを維持し、流動性を増やすということをやっている。
そしてサマーズ氏は日本政府のやっていることを的確なフレーズで表現する。
これはなかなか見ることのできない1人綱引き政策だ。どういう展開になるのか楽しみにしたい。
ドル円の動向
サマーズ氏は為替介入の直後、介入によるドル円の下落は投機家にとって絶好の機会だと言っていた。
そして結局、ドル円はその後このように推移している。
筆者も短期的なドル円の買いで少しばかり儲けさせてもらった。今年は株の空売り等で十分利益があるのでもう要らないのだが、日銀が短期トレーダーに給付金を出して経済を活性化させようと頑張っているので微力ながら協力させてもらったということである。
結論
紙幣ばら撒きで物価高騰という当たり前のシナリオを去年から警告し続け、政治家も有権者も彼の言葉に耳を貸さなかったのだから、サマーズ氏はもはやこうした状況を笑って眺めるしかないだろう。
だが短期的なドル円の予想を的中させて日銀をからかうというお茶目なことが出来る元財務長官が他に居るだろうか。
サマーズ氏はクリントン政権で財務長官を務めた。クリントン大統領は大統領執務室で不倫相手の陰部に葉巻を突っ込み、9回性行為に及んで選挙に負けた稀代の大統領だが、サマーズ氏を財務長官にしたことだけは評価せざるを得ない。
通常、政治家が優れた人材を登用することはない。日本政府が黒田氏を選んだように、馬鹿には馬鹿しか選べないからである。