引き続きBloombergによるアメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏のインタビューである。前回は為替介入についての部分を紹介したが、今回はドル高とその影響についてである。
高金利でドル上昇
アメリカの金融引き締めでドルの金利が上がっており、高金利に引き寄せられた資金がドルに集中している。
ドル円が高騰しているのは日本の読者ならば知っているだろうが、状況は他の通貨に対しても多かれ少なかれ同じである。
ドル円のチャートは前回掲載したので、今回はユーロドルのチャート(下方向がユーロ安ドル高)を掲載してみよう。
一貫した下落トレンドである。そして今や1ユーロは1ドルより安いのである。この節目に特に意味があるわけではないが、このチャートは自殺的な対ロシア制裁などで没落してゆくヨーロッパの終わりを象徴しているようにも見える。
世界経済におけるドル高の意味
話をドルに戻そう。サマーズ氏はドル高について次のように述べている。
強いドルがアメリカの輸入物価を低くしているお陰で、アメリカのインフレは本来よりも低い水準に抑えられている。
アメリカのインフレ率は現在8%を超えている。
だがサマーズ氏の言う通り、自国通貨が高ければ他国の商品を安く買えるはずなので、これでもドル高がインフレ率を抑えている状態なのである。つまり、ドル高がなければアメリカのインフレ率はもっと高かったことになる。
だがそれは逆に弱い通貨の国は通貨安によるインフレを享受しているということになる。サマーズ氏は次のように続けている。
だが一方で強いドルはインフレを他の国に押し付けている。ドルが国際貿易で使われる通貨であるために、強いドルは貿易に摩擦を引き起こしている。
そもそもアメリカで行われたコロナ後の現金給付が原因で起こったインフレが、何故世界に波及したのか? それは原油や貴金属、農作物などのコモディティ銘柄がドル建てで取引されているからに他ならない。
米国政府がばら撒いた莫大な量のドル紙幣はコモディティ市場に流れ込み、原油などのドル建て価格を押し上げた。筆者は2020年秋の時点でそれを記事にし、その後のインフレを警告している。(誰も聞かずに誰もが現金給付を喜んでいたが。)
だが問題は、ドル建てで原油などの価格が上がった後、ドルが下落していないことである。ドル紙幣のばら撒きでドルの価値が下落したならば、原油などの価格が上がると同時に為替レートもドル安に動くはずである。
ドル安にならない理由
だがそうはなっていない。その理由は、ドルが基軸通貨だからである。基軸通貨であるドルはアメリカ国内の他にも原油などの売買で使われているため、常にアメリカ国外での需要がある。
だから他の通貨とは違い、多少無理をして紙幣印刷しても通貨が直ちに下落するわけではないのである。アメリカに限らず、歴代の覇権国家はこの地位を好きに乱用してきた。
結果として、原油などの価格がドル建てで上がったにもかかわらず、為替レートは変わらないどころかむしろドル高になったため、他の通貨から見た原油などの価格は非常に大きく上がっている。
ドル高は永遠に続くのか
ではドルはどれだけ紙幣印刷しても下落しない通貨なのか? サマーズ氏はドル高について次のように述べている。
この問題は一定期間続くだろう。その間他国は非常に強いドルに慣れる必要がある。
これはドル高が一定期間続くという意味だろう。それは正しいかもしれないが、一定期間がどれくらいかということには様々議論があるはずだ。
現金給付からインフレまで時間差があったように、ドルの下落にも時間差がある。そして筆者の見込みではそのタイミングは、現在の利上げプロセスが終わり、アメリカが金融緩和に転じなければならなくなる瞬間である。
以下の記事ではアメリカの実質金利チャートを用いてドル円の上限を予想しているので、参考にしてほしい。
ドル安への転換のタイミングも実質金利のチャートが重要になってくるはずである。スタンレー・ドラッケンミラー氏も今頃タイミングを図っているだろうか。