米国時間9月21日、アメリカのFed(連邦準備制度)は金融政策決定会合であるFOMC会合の結果を発表し、3会合連続の0.75%の利上げを決定した。
これを受けて元々下落トレンドの最中にある米国株が更に急落している。
声明文は変わらず淡々と利上げ
いつも言っているように問題は1回の会合での利上げ幅ではなく金融政策が長期的にどうなるかということなのだが、まずは声明文を見てゆこう。
今回の声明文は前回からほとんど変わっていない。変わったのは「消費と生産は軟化した」という文が「消費と生産は穏やかに成長した」に変わり、経済に対してやや強気の見方となった点で、その他の部分はほとんどが前回の声明文を踏襲している。
8月のインフレ率が予想を上回って以来、金融市場では1/3程度の確率で今回の会合で1%の利上げがある可能性を織り込んでいた。
しかしこれは実現せず、前回および前々回と同じ0.75%の利上げとなった。これで政策金利は3%となり、2018年の世界同時株安の最高値である2.25%を大幅に上回ったわけである。
パウエル議長の記者会見
声明文はほぼ何も語らなかったので、市場が注目したのはその後のパウエル議長の記者会見である。彼はまず現在の物価高騰について次のように述べている。
われわれは供給ショックが和らげばインフレが落ち着いてくると期待していた。
だがそうはならなかった。供給ショックはいくらか和らいだが、インフレ率はそれほど下がっていない。
ここの読者から見れば今更の発言だろう。
ラリー・サマーズ氏のような人々は、コロナで東南アジアの工場が閉鎖し、半導体不足から中古車価格が高騰した時もインフレの原因はそれだけではないと主張し続けていたし、ウクライナ危機で原油や小麦などが高騰した時も、インフレはそもそも去年からあったことを指摘し続けていた。
だが誰も耳を貸さなかったどころか、物価高騰はウクライナ情勢のせいだという政府と大手メディアによる完全に間違ったデマを未だに信じている。
「誰にも分からない」
要するにそうしたデマがデマであることをパウエル議長さえも認めたということである。インフレはコロナ後の現金給付と脱炭素政策、そしてパウエル議長自身の低金利政策によって引き起こされた。
そして一度火が点いたインフレは金融引き締めで経済が壊れるまで止まらない。
パウエル氏は次のように言う。
この金融引き締めが景気後退に繋がるかどうか、もしそうなればどれだけ深刻な景気後退になるのかは、誰にも分からない。
本当に分からないだろうか。あるいは分かっていても分からないと言わざるを得ないのだろうか。筆者の尊敬する何人かの専門家は具体的にどうなるかを既に説明している。
パウエル氏は次のように付け加える。
もしFedが2%の物価目標を達成するために金融政策をより引き締めなければならないとすれば、ソフトランディングの可能性は消えるだろう。
しかしそれでも高い物価は長期的により大きな痛みをもたらす。
以前「ソフトランディングのようなもの」(原文:soft-ish landing)ならば可能だと力強く主張していたパウエル氏の言葉はどんどんトーンダウンしている。
以下のガンドラック氏の分析でも分かるように、ソフトランディングはどう考えても無理であり、それはパウエル氏も内心分かっているからだろう。
お通夜のような記者会見と金融市場の反応
このようにお通夜のようなFOMC会合を受け、米国株は急落した。
一度は楽観的になりつつあった株式市場だが、再び今年の最安値に近づいている。
今後の利上げ動向を織り込む2年物国債の金利は一時ついに4%を上回った。
2年物国債は遂にレイ・ダリオ氏が予想する大台まで近づいてきたということである。
結論
筆者はこの状況を予期して米国株の空売りを続けている。
読者に聞きたいのだが、この状況を予想するのはそれほど難しくなかったとは思わないだろうか。インフレが悪化することは去年から明らかだったし、金融引き締めが2018年の世界同時株安の時よりも酷くなることは去年から明らかだったし、そうなれば数十パーセントの株価下落では済まないことは去年から明らかではなかっただろうか。
去年、インフレ率が既に高騰していたにもかかわらず、紙幣印刷を続けていたパウエル氏がインフレを悪化させているということは明らかではなかっただろうか。
そしてその後、急激な金融引き締めに転換せざるを得なくなり、経済は景気後退入りし株価は暴落するということは明らかではなかっただろうか。
Bloombergを眺めていたらCentre Asset Managementのジェームズ・アベート氏の面白い発言が目に入ったので引用して纏めとしたい。
Fedはあまりに長く金利を低すぎる水準に留めることでこの状況を作り出し、今では強硬手段を取らざるを得なくなっている。
Fedは自分で火を点けた後に自主的に火を消すことで英雄を気取る放火犯のように見える。
人々はいつになったらハイエク氏の言葉に耳を傾けるのか。彼らは馬鹿なのか。