引き続き世界最大のヘッジファンドBridgewaterを運用するレイ・ダリオ氏のLinkedInのブログから、今回はアメリカのインフレ率の推移予想を書いた部分を紹介したい。
アメリカのインフレ動向
まず、アメリカのインフレ率は現在8.2%である。アメリカのインフレ率は去年から今年の前半にかけて大きく上がった後、半年ほど8%前後で推移している。
世間では(特に欧米では)インフレが大きな騒ぎになっている一方で、金融市場を細かくチェックしている読者なら知っているかもしれないが、相場のインフレ予想は驚くほど落ち着いている。ダリオ氏は次のように述べている。
現在、金融市場はアメリカのインフレ率を今後10年間で年率2.6%になると織り込んでいる。
今後10年のインフレ率の織り込みは、通常の10年物国債の金利からインフレヘッジの10年物国債の金利を引くことで得られる。これをブレークイーブンインフレ率と言うが、そのチャートは次のように推移している。
最新の数字は2.4%だが、足元のインフレ率が8%で推移する中、今後10年のインフレ率が2.4%というのはどういうことだろうか。
ブレークイーブンインフレ率の意味
筆者の見解では、これは金融引き締めによる株価下落と景気後退による来年、再来年のインフレ率急落を暗示しているのではないか。
これは5年のブレークイーブンインフレ率が2.5%であることからも考えられる。
今年のインフレ率が8%で、ろくに下がる見込みも立っていないのに、今後5年のインフレ率が2.5%とはどういうことだろうか? 中央銀行は希望的観測でインフレ率はすぐに2%に戻ると言っているが、市場もそれに同意しているのだろうか?
筆者の意見では、債券市場の結論は中央銀行と同じであるものの、そのプロセスは大きく違う。何故ならば、インフレ率が次第に2%台まで戻るならば、今後5年のインフレ率は2%台にはならない。5年間の最小値が2%台なのだから、平均はもっと高いはずである。
つまり5年のブレークイーブンインフレ率が2.5%というのは、インフレ率が次第に落ち着いて2%台に戻るのではなく、何処かのタイミングでインフレ率が2%を大きく下回ることを織り込んでいなければならないのである。
そしてそれは株価暴落や景気後退のようなショック以外には有り得ないのである。
ダリオ氏のインフレ率予想
筆者の私見を長く書いてしまったが、ダリオ氏のインフレ率の予想はどうなのだろうか。彼は次のように市場の予想値に対し異論を述べている。
わたしの予想は(ヨーロッパとアジアにおける経済戦争の悪化や、更なる干害や洪水のような)ショックがなければ、長期的に4.5%から5%程度になるというものだ。ショックがあれば、そこから更に顕著に高くなる。
だが短期的にはインフレ率は下がると予想しているようだ。彼は次のように付け足す。
短期的には(エネルギーのような)一部の要素に対する過去のショックが和らぐことでインフレ率は僅かに下がるだろう。
エネルギーのショックが和らいだというのは、原油価格がピークから下がってきたことを言っている。原油価格のチャートは次のように推移している。
原油価格のピークアウトについては筆者が以下の記事で予想してあったので、ここの読者には驚きではなかっただろう。
結論
読者は以上の議論を読んでどう考えただろうか。ダリオ氏の議論は的を射ているように見えるものの、金融市場の動きを考慮に入れていないように思える。
だがダリオ氏も株式市場の大幅下落を予想しているので、その辺りはどう考えているのか。
いずれにしても、ダリオ氏はインフレの一旦の収束と、そこからの再上昇を見込んでいるようである。第2波ということだが、筆者の予想では株式市場の荒波がインフレ第2波をダリオ氏の予想よりも過激なものにするだろう。