2021年、まだ世界がコロナ禍で混乱している中、Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏はアメリカ最大の農地保有者となり密かなニュースになった。
世界的なインフレが話題となる中、なかなか興味深い投資対象が存在する。農地である。
ビル・ゲイツ氏の資産を運用する男
そもそもビル・ゲイツ氏は何故農地を保有しようと思ったのか? 厳密に言えば、農地に投資するというアイデアを思いついたのは恐らく彼ではない。
2022年に入ってから人々はインフレの話ばかりしているが、ものの値段が上がるなかで農地は良い投資である。ゲイツ氏が2021年前半に農地に投資をしたという話を聞いてから、優れたアドバイザーが付いていると感じていたが、前回の記事で誰だろうと問いかけたところ多くの人が回答をくれた。情報提供に感謝したい。
情報提供によれば、農地への投資というアイデアを思いついた人物はマイケル・ラーソン氏というファンドマネージャーらしい。
ビル・ゲイツ氏の個人資産はCascade Investmentという会社が管理しており、ゲイツ氏が稼いだ資金は他にビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団にも流し込まれている。この2つの組織の資産運用を担当するのがラーソン氏である。
マイケル・ラーソン氏
この人物はこれまでほとんど公の場で話したことがないため、投資手法などもあまり明らかにされていない。顧客がゲイツ氏1人であるため、広報の必要がないのだろう。
彼は21歳でシカゴ大学でMBAを取得している。実務の世界ではM&Aなどを担当した後、資産運用会社のPutnam Investmentsで債券取引を経験し、その後自分のファンドを立ち上げるために独立したらしい。(※9/11 校名の誤りを修正しました)
その後の投資スタイルを見る限り、彼はジェフリー・ガンドラック氏やスコット・マイナード氏などと同じ、マクロ的な視点を持った債券投資家のようだ。
ラーソン氏はその後も何年かファンドマネージャーをやっていたが、34歳の時にビル・ゲイツ氏に資産運用担当者としてヘッドハンティングされる。その後30年近く彼はゲイツ氏の資産を運用してきたようである。
その投資手法はヘッジファンドというよりは年金基金に近いらしい。基本的には債券に投資し、着実に金利を得ながらも、マクロ的な視点から農地など様々なものに投資をすることもある。
パフォーマンスは長期的にはS&P 500を少し上回る程度だと言われている。だがラーソン氏が驚異的なのは、このS&P 500プラスアルファのパフォーマンスは、リーマンショックやコロナショックなどの大幅な短期的下落を伴わない条件の上で達成されているということである。まさに下落することのない株式投資である。
トップのヘッジファンドほど儲かるわけではないが、それほど損をすることもなく安定して毎年10%程度のリターンを上げ続けるという、まさに個人投資家の夢のようなリターンを彼はゲイツ氏に提供し続けている。
だがそのようなパフォーマンスを彼は何も考えずにインデックスに投資して寝ていることで達成しているわけではない。彼はゲイツ氏のために卓越した頭脳をフルに使って最適なポートフォリオを常に形成している。多くの個人投資家は彼と同じことを何も考えないことで達成しようとしている。狂気の沙汰としか思えない。
一方でラーソン氏は、例え米国株のパフォーマンスが何十年も死ぬような事態になっても、毎年10%程度のリターンをゲイツ氏に提供し続けるだろう。
農地への投資
ここでは何度も書いてきたように、デフレの状況下では米国株は長期的に上がり続けるが、インフレの状況下では何十年もマイナスリターンになるということが有り得る。
そしてアメリカで遂に物価高騰が起きてしまった2022年以後の相場とはそういうものである。
その状況に対応するためにラーソン氏が考えたのが農地への投資なのだろう。農地とは農作物を産み出す土地である。インフレで不動産と農作物が両方高騰するならば、農地は抜群の選択肢である。
だが、日本の投資家にはアメリカの不動産売買は荷が重いかもしれない。しかし日本の投資家にも簡単にアメリカの農地に投資する方法が存在する。何故ならば、実はアメリカの株式市場には農地のREITが上場しているからである。
例えばGladstone Landである。コロナ後のパフォーマンスは次のようになっている。
他にはFarmland Partnersなどがある。
農地REITなど、普通の投資家はなかなか考えない選択肢ではないか。
結論
これまでにも書いてきたが、現在の状況で農作物や不動産に投資すべきかどうかというのはまた別の問題である。
だが農地という選択肢は多くの個人投資家にはなかったのではないか。しかし視野を広く持つことは常に投資家にとってプラスになる。こういう銘柄もあるということで紹介した次第である。