物価高騰を抑制するためにアメリカのFed(連邦準備制度)が金融引き締めを開始して以来、金融市場ではあらゆるものが下落している。利上げで株式も債券も両方下落するので、分散と思って両方買った投資家は酷い目に遭っている。
こういう相場では何に投資をすれば良いのか。DoubleLine Capitalのジェフリー・ガンドラック氏がThe Market NZZのインタビューで説明している。
株式と債券の同時下落
そもそも何故株式と債券が両方下落しているのか。ガンドラック氏は次のように説明している。
問題は、金融市場全体がゼロ金利と量的緩和を前提に値付けされているということだ。そしてFedはそれが無くなると言った。今でもそれを堅持し続ける意図があるような口ぶりでいる。
結果として、資産価格は下落している。
米国株のチャートを以下に掲載しておこう。
そして金利上昇は債券価格の下落を意味するので、債券も同様に下落している。
では何に投資すべきか
こういう状況でヘッジファンドがやる取引は当然ながら空売りである。実際、筆者も筆者の一目置くファンドマネージャーらも今年は空売りで儲けている。
だが、理由は不明だが個人投資家の多くは空売りをしたがらない。恐らく理由は、彼らは誰かに奨められた取引、誰もがやっている取引しか出来ないからだろうが、すべてが下がる相場で買い限定のNISAをやらされている時点で詰んでいるということにまず気付いた方が良い。NISAは個人投資家に株を買わせて政権の支持率と証券会社の手数料売上を上げるための手段にすぎない。
何を買えば良いか
だが筆者と違って親切なガンドラック氏は、個人投資家向けに買い限定で投資戦略を考えてくれている。彼は例えば次のようなものを推奨する。
もし何か本質的なものに投資したいと思うなら、例えばエネルギー企業のようなものに投資すべきかもしれない。
脱炭素政策によって、皮肉にも原油の価値は大幅に上がった。
脱炭素を進めてきたバイデン大統領はいまや中東に原油産出量を増やすようにお願いしている。
だが筆者はこの状況でエネルギーに投資することにも懐疑的である。6月末の記事に以下のように書いておいたことを思い出したい。
金融引き締めが強力すぎてインフレから一気にデフレに移行する場合、原油はもともとボラティリティが高いため、原油価格の下げ幅は株式市場の下げ幅を上回る可能性がある。
そして原油価格がどのように推移したかと言えば、まさに6月から下落トレンドに入っている。
筆者の予想が当たるのはいつものことなのだが、やはり原油などのコモディティ銘柄も緩和で上がってきたのだから、引き締めで下落すると考えるのが妥当だろう。
ただ、1970年代のようにインフレが第2波、第3波となって襲ってくると考えるのであれば、長期的にはエネルギー企業は買いだろうし、少なくとも普通の株式よりは良い投資になるかもしれない。だが筆者としてはやはり引き締めで一度下落した後のエネルギー関連銘柄を買いたいところである。
他に買えるもの
では他に買えるものはあるか? ガンドラック氏は続けて次のように言っている。
必需品を生み出す古風なタイプの資産に投資をするのが良いだろう。農地、食料、エネルギー、原油だ。これらの資産はあなたをインフレから守ってくれる。景気後退からの守りにもなる。
農地と言えば、Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏が2021年に農地を買い漁り、アメリカ最大の農地所有者となってニュースになった。
恐らくは去年の内から現金給付で物価高騰が引き起こされることを予測して備えていたのだろう。彼自身は投資家ではないから、優れたアドバイザーが付いていると思われる。誰だろう。知っている人がいれば教えてもらいたい。
ただ、これらも結局は長期投資である。スタグフレーションになれば結局はすべての資産価格が下落する。望みがあるとすれば長期か超長期の国債だが、リーマンショックで唯一上がった資産である国債も、今回はインフレがあり、リスクオフの上昇分がインフレの下落分を打ち消せるかは定かではない。
結局は空売りが出来なければ生き残るのは難しいということだ。
結論
空売りをしない個人投資家には絶望的な結論だが、空売りをする個人投資家には別に絶望的な結論ではないだろう。
ただ、ガンドラック氏が「必需品」にこだわったことには意味がある。その意味は、前回の記事を読めば分かるだろう。
インフレにせよ景気後退にせよ、人々が困窮することには変わりはない。それが現金給付と脱炭素政策のツケである。
人々が困窮したとき、それでも人々が買わなければならないのが必需品である。エネルギー企業の株が下がるとしても、他の株式ほど下がるわけではないだろうとガンドラック氏は予想しているのである。彼は次のように纏めている。
人々は食料や他の必需品を買わなければならないが、あらゆる贅沢品のための資金は残されないだろう。