株式投資ブームに乗った時点で個人投資家の損失はほぼ確定している

金融業界で働く人々には驚きではないだろうが、筆者はいまだに「投資を始めたいのですけど」という相談を受けることがある。筆者が「いまだに」という理由は、ここの読者には分かってもらえるだろう。

乱高下する2022年の株式市場

今年の株式市場は、年始から大きく下げ、7月以降それからある程度反発し、ここ10日ほどはやや下落している。

読者には周知の事実だが、今年は筆者にとって良い年である。年始の記事では下落を予想し、株価が下落すれば利益が出る株の空売り開始を宣言した。

その後6月末から7月初めにかけて空売りを一旦手仕舞いし、10日ほど前から再び空売りを開始している。

一方で多くの個人投資家の動きはどうだろうか。株価が大きく下げていた6月末までは絶望していた人々も、その後の反発でもう嵐は去ったかのような顔をしている。だが多くの個人投資家は年始から株価が下がった理由もよく分かっていなければ、その後反発した理由もよく分かっていないだろう。

バブルとは何か

そもそもこうした個人投資家の多くが何故株式市場に足を踏み入れてきたのかと言えば、金融庁が銀行業界の利益のために推進したつみたてNISAが原因である。そもそもこれが国民のためではなく銀行や証券会社のために設計された制度であることは金融業界の人間であれば誰でも知っているのだが、こうした個人投資家たちは何も知らずにその流れに乗っている。

こうした投資ブームはコロナ後に株価が上がったことが明らかな一因である。そこにメディアやYoutuberなどによる喧伝が加わったことで、これまで投資に触れたこともなかったような人々が株式市場に参入してきた。

だが上昇相場というものはもっと早くから形成されるものである。上昇相場は誰も気付いていない時に密かに始まり、そこから徐々に人が集まり始め、最後は熱狂とともにバブル崩壊で終わる。

バブルの形成と崩壊

バブルは崩壊する運命にあり、優秀な金融家であればその運命を最初から予測することもできる。

バブルが生まれつつあると彼らが認識したとき、彼らはどうするだろうか? それはバブルなので株を売るのだろうか?

恐らく世界でもっとも著名なファンドマネージャーであるジョージ・ソロス氏は、2009年に中央ヨーロッパ大学における講演で次のように述べている。

バブルが形成され始めているのを見ると、わたしはまず買いに走る。

それがバブルであり、後で崩壊すると知っていたとしても、それが一定期間続くのであれば、ファンドマネージャーはまず買いに走るだろう。

だがそれはバブルの最初期である。コロナ後に暴落したハイテク株を買い漁ったスタンレー・ドラッケンミラー氏のように、バブルの最初期に買い始められる人間は多くない。

投資を生業にしている人々の中でも慧眼を持った人々がまず最初に買いに入ることができる。そこから少しずつ株価は上がってゆき、次に平均的な市場参加者が上昇トレンドに注目し始める。

このようにして普段から投資を行なっている人々の大半が株を買い持ちにするようになる。多くの人が株を買えば株価は上がるので、その時点で株価はかなり上がっているはずである。

そこで株式市場の上昇がニュースなどで盛んに喧伝されるようになる。ここでようやく、投資に触ったことさえない人々が株式市場というものについて聞き始める。

新参投資家の参入

恐らくは、金融庁の人々も株式市場の上昇を見て「これはいける」と思い始めたのだろう。その動きは完全に素人の後追いだが、はっきり言って金融庁の人々は投資の素人である。

そうして金融庁はさかんにつみたてNISAを喧伝し始める。投資対象として奨められているのは手数料の安いETFよりも、投資家にはほとんどメリットが存在しないが銀行や証券会社には手数料が高いという大きなメリットのある投資信託なのだが、新しく参入してくる素人投資家がそこに疑念を持つことはない。

こうして株式市場の上昇相場にあらゆる人々が順番に参入してくる様子を描写してみたわけだが、問題が1つある。新参の個人投資家が株を買った後、誰が株を買って株価を上げてくれるのかということである。

株式投資が儲かるのは、基本的には自分が買ったものを他の人が後追いで買ってくれるからである。株は誰か買う人がいるから上がる。

元々投資をしている人のうち、まず最初にバブルに気付いた人が買う。そうして株価が上がってくると、元々市場にいる人々の大半が買うようになる。

彼らにとっても後追いの買い手が必要である。そこで参入してきたのが、これまで投資に手を出したことのない新たな個人投資家たちである。

ここで問題がある。元々投資に参加していた人々と、新しく投資を始めた人々が既に株式を買ってしまったのであれば、新規参入した素人投資家のために後追いで買ってくれる人とは誰なのだろうか?

結論

答えは明確である。誰もいない。そして株式市場のバブルは新たな買い手がいなくなった時点で終了する。誰も買わなければ、あとは株価は下落するのみである。

だから株式投資ブームというものをそもそももう一度考えてみてもらいたい。ブームというのは、普段投資をしないような人々まで投資に手を出しているからブームなのである。ある程度の頭のある人なら分かるだろうが、それは定義上バブルの天井に他ならない。

以上の理屈により、筆者に「最近投資が流行っているらしいので自分もやってみようと思うのですが」と言ってくる人に対して筆者が言うことは決まっている。流行に乗って投資をしようとした時点であなたの損失はほぼ確定している。

一方で専門家の動きはどうなっているだろうか。コロナ後のハイテク株のバブルの初期を捉えたドラッケンミラー氏を含め、著名ファンドマネージャーらが今年どうしているかと言えば、株価の下落を予想して大儲けしている。悪いのは彼らではなく、素人をそそのかした金融庁である。