ジム・ロジャーズ氏: インフレ鈍化による株価反発は暴落前の最期の楽観

ジョージ・ソロス氏とともにクォンタムファンドを設立したことで有名なジム・ロジャーズ氏がET NOWのインタビューで株式市場の見通しについて語っている。

米国市場の株価反発

2022年の株式市場は短期的な値動きを気にする投資家には忙しい相場である。年始から株価は大きく急落した。インフレと金融引き締めが原因である。

インフレも金融引き締めも2年前から分かっていた話なのだが、何故人々が今になって騒ぎ始めるのかは不明である。

しかし金融市場とはそういうものである。理性的な人々が懸念し始めてから大体2年ほど遅れて下げ相場はやってくる。2年もあれば被害は避けられるのだが、人々がそれを避けることはない。誰もインフレなど気にかけていなかったではないか。

それで下げ相場はやってきた。だが株価はそこから多少反発した。米国株のチャートは次のように推移している。

米国株の上昇は本物なのだろうか。あるいは下げ相場の中の一時的な反発に過ぎないのだろうか。ロジャーズ氏は今の株式市場の状況を次のように説明している。

これまで市場を悲観が支配してきた。そして悲観が大きいとき、大抵は何かが起こり人々が楽観的になり始める。

そのいつものパターンが起こったようだ。中央銀行が引き締めを緩めると人々は思っている。だから今度は楽観が起こっている。この上昇相場はある程度続くかもしれない。

ある程度経験のある投資家なら分かるだろうが、市場が楽観と悲観を行き来するのはいつものことなのである。そして短期的な株価の値動きから目をそらしてみれば、状況は大して何も変わっていない。

アメリカのインフレ率はまだ8%を超えており、これを抑制する過程で経済成長も大いに抑制されるだろう。インフレ率と経済成長率の片方だけを抑制することはできない。

インフレ率が目標の2%に到達するためには、インフレ率は6%抑制されなければならない。ではその過程で経済成長率は何%抑制されるのだろうか? 今株を買っている人々はそれを考えたことがあるだろうか。

インフレ相場見通し

インフレとはそういうものである。しかしそのインフレは去年からずっとあったにもかかわらず、株価は上昇を続けてきた。人々は事実など気にしていないのである。そこにあるのは主観的な楽観と悲観だけである。ロジャーズ氏はこう続ける。

長い上昇相場の最後に人々は熱狂する。彼らはいつもそうだ。そうして雲行きが怪しくなる。理由はインフレであれ何であれ、大きな悲観が来る。

長らく楽観だけだった相場に大きな悲観がやって来る。それに続くのは、悲観と楽観を繰り返しながら長期的な行き先に収束してゆく長期相場である。

ロジャーズ氏のかつてのパートナーであるソロス氏は、著書『ソロスの錬金術』で次のように言っていた。

強気相場は小爆発にときおり見舞われながら続いていく。そうしているうちに、だれも小爆発を恐れなくなる。このときこそ、大暴落の条件が整ったときなのである。

ロジャーズ氏は次のように続ける。

今やインフレ、あるいは悲観は姿を消し始めている。だがこれが最後の上昇だ。

結論

読者にとってどう見えるかは分からないが、筆者の目から見れば今の市場を支配しているのは大きな楽観である。

上にも書いたが、インフレ率を6%抑えるために経済成長率と企業利益がどれだけ下がるかを理解している人は誰もいない。皆インフレが勝手に収まると思っている。

だが今の市場参加者にそれを求めるのは酷ではないか。アメリカでも日本でもそうだが、金融庁やYoutubeのインフルエンサーにそそのかされ、2022年の相場には大量の素人が流入してきているのである。

彼らには株式市場がそもそも手に負えないのに、40年来初めてのインフレ相場など手に負えるわけがないではないか。

ロジャーズ氏はこう語っている。

新たな投資家が市場に入ってくる。彼らは皆こう言う。「株式市場とかいう新しいものを発見した! これは楽しい! 儲かる! 簡単だ!」そして狂った株を買い始める。狂った株は天井を超えて上がり続ける。

いやいやいや。何も新しくない。この暴れ馬を見たのは決して初めてではない。そしてそれがまた起こっている。

株式市場とかいう新しいものはもう何百年も存在し続けている。そしてその楽観と悲観の深淵は同じような素人を何度も飲み込み続けている。

しかし、それでも40年来の米国株上げ相場の天井という見事なタイミングで素人に外国株投資を推奨した金融庁の才覚は本当に天才的である。彼らはいまだにつみたてNISAを成功だと思っている。多くの人の将来設計が詰んだだけのことである。


ソロスの錬金術