フランスのスーパー、物価高騰を受け政府の圧力で日用品の価格凍結

政治家たちはもはやわざとインフレを悪化させているのではないかと思わずにはいられないが、今日も各国政府のインフレ対策の話題である。

ヨーロッパのインフレ危機

ここでは何度も報じているが、世界的な物価高騰が話題になっており、しかもアメリカやヨーロッパでは日本より酷いインフレが消費者を苦しめている。

スペインでは電力不足で真夏でも冷房を満足に付けられず、真冬でも暖房を制限される状況が続いている。

食料価格高騰も深刻であり、EUは市民にバッタを食べるよう促している。

それでも物価高騰は止まらない。ユーロ圏のインフレ率は9%に届こうとしている。

フランスで価格統制

そこで政治家たちはいつも最高のアイデアを思いつく。価格統制である。

Reutersなどが報じているが、フランスの大手スーパーCarrefourは22日、インフレ対策として洗剤や米、イワシの缶詰などの100種類の日用品に関し、これ以上の値上げを行わない価格凍結を行うと発表した。

これはフランスのマクロン政権による圧力の一環であり、他にもエネルギー大手のTotalEnergiesや海運大手のCMA CGMなどが値下げを余儀なくされている。

価格が上がっていて皆が困っているならば、政府が強権を発動して価格を上げられなくすれば良い。素晴らしいアイデアではないか。価格が上げられなくなったら価格高騰の問題は解決されるのではないか。読者はどう思うだろうか。

インフレは価格の話ではない

そもそもインフレとは何かという話から始めよう。インフレとは物価が上がることであり、何故物価が上がるかと言えば、物資を必要としている人が多いにもかかわらず、物資の供給が少ないため、取り合いになって価格が上昇してしまう現象のことである。

何故物資が取り合いになったかと言えば、コロナ後に世界中の政府が現金をばら撒いたからである。大量に現金をばら撒けば、人々はそれを使って本来必要でないものまで買い漁るだろう。何故それが分からなかったのか。

ここでもう一度思い出してほしいのが、恐らく史上最高の経済学者であるフリードリヒ・フォン・ハイエク氏(断固としてケインズ氏ではないことをここの読者には書いておきたい)が50年前に考えていたことである。以下の記事に纏めたことだが、もう一度引用してみよう。

ハイエク氏は彼の『貨幣論集』において次のように書いている。

あらゆる世代の経済学者は政府が貨幣の量を素早く増加させることによって短期的には政府は失業のような経済的害悪から人々を救済する力を持っていると主張し続けてきた。残念ながらこれは短期的に正しいに過ぎない。

何故か。ここの読者には何度も書いた話だが、例えば中央銀行が市場から債券を買い入れる量的緩和政策は、それがなければ倒産してしまっていたであろう企業に融資を与え、政府が意図的に救済することに等しいからである。

本来、人々に求められない商品を作る企業は倒産する。しかし政府が資金を流し込めば、本来潰れるはずの企業が生き残る。ゾンビ企業の誕生である。

延命されたゾンビ企業はどうなるか。社会のリソースを浪費し、人々に求められない商品を作り続ける。その結果は何か。誰もその商品を買わず、値下げを余儀なくされる。長期デフレトレンドの誕生である。

だから金融緩和は短期的にはインフレ的に働くが、長期的にはデフレを引き起こす。インフレとデフレを行き来しながら、ゾンビ企業の作った商品で溢れる経済の成長率は静かに沈んでゆく。著名ファンドマネージャーのスタンレー・ドラッケンミラーが以前言っていたことである。

デフレとインフレの狭間で

さて、そうこうしている内に景気停滞は深刻となる。それは普段は表に見えていないが、例えばコロナなどの大災害が起こったときに、経済は思っているより弱いのだということに人々は気付かされる。

そのような状況で政治家はいつもの方法を行うだろう。紙幣印刷である。そうして物価高騰が巻き起こる。これまでは耐えられたインフレとデフレの波が、耐え難いほどの荒波に変わってゆく。

「インフレが起こらなければ紙幣印刷をしても大丈夫だ」というのが彼らのスローガンだった。ではインフレが起こったら彼らはどうするか。天才ハイエク氏はそれも予想しこう書いている。

周知の通り、インフレは経済や市場の秩序が破壊されるまで続く。しかしわたしにはより悪い可能性のほうがありうるように思われる。

政府は物価高騰を止めることができない。しかしこれまでもそうだったように、物価高騰の目に見える効果だけは抑えたいと考える。物価高騰が続き、価格のコントロールが行われるようになり、それは究極的には経済制度全体を管理するところにまでいたる。

これが1977年にハイエク氏が書いた文章だということが信じられるだろうか。今の政治家たちは彼の予想をほとんどそのままなぞっている。

そして価格統制をハイエク氏が「より悪い可能性」と呼ぶのは何故か。

価格統制を行えば、価格は上げようがない。実際には物不足が酷くなればブラックマーケットでものが売られることになるのだが、経済学者であれば誰でも、価格統制が考えうるもっとも愚かなインフレ対策であることを知っている。

何故ならば、物不足で価格が上がるという市場原理には意味があるからである。価格が上がれば、より高いコストを払ってでもものを生産しようとする企業が現れる。価格が変わらなければ、その価格で売ることの出来る企業は既にものを作っているのだから、経済全体の生産量は変わらないだろう。

価格が上がるからこそ生産量が徐々に増えてゆくのである。価格統制は生産量増加を止めてしまう。そして確かにスーパーでものが高値で売られることは無くなるが、生産量が増えることはなく、そもそもスーパーからものが無くなってしまうだろう。

インフレの本質は価格の話ではなく物不足である。政治家は馬鹿だからそれが分からない。

結論

それがインフレ対策としての価格統制の効能である。政治というものはどの国も大体駄目だが、フランスは特に酷いインフレ対策を行なっていると感じる。

何故こうなってしまったのか。何故政治家はインフレをわざわざ引き起こし、しかもそれを悪化させるのか。

その答えもハイエク氏が50年前に書いている。

貨幣の量を増やすことは短期的には有効に見えるかもしれないが、長期的にはさらに大きな失業を引き起こす原因となる。これが事実である。しかし短期的に支持を獲得することが出来るならば、長期的な効果を気にかける政治家が果たして存在するだろうか。

何度も言うが、現代人はハイエク氏の言葉に耳を傾けるべきである。彼は天才である。


貨幣論集