引き続き機関投資家の米国株買いポジションを開示するForm 13Fである。これまでジョージ・ソロス氏とレイ・ダリオ氏のポートフォリオを報じたが、今回はソロス氏の弟子にあたるスタンレー・ドラッケンミラー氏のDuquesne Family Officeについて報じたい。
ドラッケンミラー氏の相場観
ドラッケンミラー氏はソロス氏のクォンタム・ファンドを率いたことで有名であり、ドットコム・バブルで巨額の損失を出して退職するまで毎年驚異的なパフォーマンスを上げた。
そして今年はダリオ氏、ソロス氏と同じく、年始からの株安を予想して空売りで大きく利益を上げていた。
だがドラッケンミラー氏は6月時点で空売りを一時休止し、空売り再開のタイミングを探るとしていた。
米国株の買いを大幅減額
さて、今回のForm 13Fは6月末時点でのドラッケンミラー氏のポートフォリオである。Form 13Fは買いポジションだけを開示するので空売りポジションは掲載されないが、買いポジションだけからでも相場への態度を読み取ることはできる。
だからまずはForm 13Fに掲載されている買いポジションの総額の推移を掲載したい。
- 2021年12月末: 28億ドル
- 2022年3月末: 23億ドル
- 2022年6月末: 14億ドル
3月末時点でも買いポジションは減らされていたが、今回更に減額され、年末時点と較べて半分にまで減っている。ドラッケンミラー氏のポートフォリオは2021年には39億ドルまで膨らんでいたこともあることを考えると、今回の14億ドルがどれだけ少ないかが分かる。
ハイテク株を手仕舞い
では個別株ポジションはどうなっているだろうか。
ドラッケンミラー氏は2021年にはハイテク株を大いに買っており、今年も主要ポジションの多くはハイテク株だったが、例えば今回Microsoftは株数を27%減らされ1.9億ドルのポジションに縮小されている。Microsoftの株価は次のように推移している。
金利上昇を嫌って長らく下げ続けていたハイテク株は、金利上昇が止まったことによって6月末以降反発している。
また、他に規模の大きいポジションだったのはAmazon.comで、3月末時点では2.0億ドルのポジションだったが、こちらは全株売却して手仕舞いとなっている。
Amazon.comの株価は次のように推移している。
こちらもその後上がっている。しかもAmazon.comと言えば、師匠であるソロス氏が買い増した銘柄筆頭である。
ハイテク株の命運を決めていた金利の動きを機敏に察知し、空売りから買いに転じたソロス氏と比べ、ドラッケンミラー氏は単に買いポジションから一貫して撤退している。少なくともここ数ヶ月の動きに関しては、師であるソロス氏に軍配が上がったとは言えるだろう。
また、長らく最大ポジションとなっていた、韓国のAmazon.comと呼ばれるCoupang(米国に上場している)については株数を維持して2.5億ドルのポジションとなっている。Coupangの株価は次のように推移している。
他に特筆すべきポジションとしては、銅などの生産で有名なFreeport McMoRanだろうか。このポジションも33%売却され、0.9億ドルのポジションに縮小されている。
Freeport McMoRanの株価は次のように推移している。
明らかにパフォーマンスは良くない。
ちなみに銅は主に中国の建設業界で消費されているため、筆者が長らく空売り対象としている銘柄である。
結論
ここから何が読み取れるか。まずドラッケンミラー氏が銅(関連銘柄)の買いを手仕舞ったということは、明らかに世界的な景気後退に備えているということである。銅価格は実体経済の景気を表す指標とも言われる。
今年の相場では筆者とドラッケンミラー氏はよく似たトレードをしている。株価の空売りとコモディティの買いである。
ドラッケンミラー氏は6月時点で空売りを一時休止し、その後筆者は少しの間考えたが結局ドラッケンミラー氏の決断に従う形となった。
このように米国株はその後反発しているので、この意味ではドラッケンミラー氏に助けられた形となるが、銅に関しては筆者の方が一枚上手だったと言えるだろう。中国バブルが崩壊している状況で銅を買い持ちにするのは危険である。
ここでは様々な投資家の相場観を紹介しており、それらを比較するとそれぞれのトレーディング方針には一長一短あることが分かる。
それぞれにそれぞれの考え方があり、それらを眺めることは自分の相場観を補強する上で役に立つだろう。
ちなみにもう1つ注目すべきは、14億ドルというドラッケンミラー氏のポジション総額である。コロナ初期の暴落相場においても25億ドルまでにしか縮小していなかったため、ドラッケンミラー氏は現在の相場をコロナ初期の暴落相場以上の危機と見ているとも読み取れる。
以上より彼の株式市場に対する見方は以前のインタビュー記事の頃から変わっていないと思われる。以前の発言通り、空売り再開のタイミングを虎視眈々と狙っているか、あるいはもう始めているのかもしれない。