引き続きジム・ロジャーズ氏のインタビューより、今回は中国とアメリカの経済政策の違いについて語っている部分を紹介したい。
中国の不動産バブル崩壊
アメリカが物価高騰で苦しむ一方で、中国ではいまだに続くコロナによるロックダウンと不動産バブル崩壊が経済を墜落させている。
日本でどれだけ報じられているか分からないが、中国の不動産バブル崩壊はすでに確定した事実であり、中国の不動産セクターは酷いことになっているが、リーマンショック時における米国政府とは違い、中国政府が個別企業の救済に乗り出しそうな気配はない。
一見無慈悲に見える中国政府だが、このことについてロジャーズ氏は次のように述べている。
中国政府は倒産する企業をそのまま倒産させると言った。彼らが本気であれば良いと思う。米国政府も同様に倒産する企業をそのまま倒産させれば良いのだが。
何故か。赤字を垂れ流し続けるゾンビ企業を公的資金を使って延命させても、誰も欲しない製品を作り続けるだけだからである。
意図的に赤字を出している企業を除き、その企業が赤字なのはその企業の作るものを誰も欲しくないからである。
自由市場では、そういう企業は自動的に潰れる。だが量的緩和政策などで中央銀行が社債やジャンク債を買い入れるということは、誰も望まないものを作り続ける企業を融資により延命することに等しい。
その結果は何か? デフレである。何故か? 誰も望まない商品は値下げをしなければ売れないからである。
だから量的緩和政策こそがリーマンショック後のデフレの原因だった。ロジャーズ氏とジョージ・ソロス氏が立ち上げたクォンタム・ファンドを後に運用したスタンレー・ドラッケンミラー氏も過激にこの点を指摘していた。
デフレになればなるほど金融緩和が酷くなるので、経済に占めるゾンビ企業の割合はますます増えてゆき、経済成長率はますます低くなった。
そこにコロナ禍が起き、現金給付という禁じ手を使ったことでデフレは一気にインフレになった。
デフレとインフレはコインの両面で、容易に逆に移行する。
緩和すれば酷いインフレに、止めれば酷いデフレになる状況が起き、1970年代のアメリカのようにデフレとインフレを繰り返す不況の時代が来る。以下は当時のインフレ率のチャートである。
詳しくは以下の記事に譲ろう。
共産主義的な緩和政策
何故緩和政策は酷い結果にしかならないのか? それは緩和政策が共産主義的だからである。
政府が救済したり緩和をしたりする場合、そこから利益を受けるゾンビ企業が必ず存在している。コロナ後はそれは露骨になり、「自粛」にともなう過剰な支援金でレストランの店主が小金持ちになったり、GO TOトラベルで自民党の票田である宿泊業界に金が入ったりする。
ここの読者にはもうお分かりだろうが、これは「どの企業が生き残るべきかを政府が決定する政策」であり、これはまさに共産主義の定義である。
つまり緩和政策は共産主義であり、だからこそ経済の低成長に繋がっている。中国とソ連が既に失敗したことをアメリカと日本が追いかけてやっている。このことはBridgewaterのレイ・ダリオ氏も指摘していた。
一般市民がどう思っているかは分からないが、ダリオ氏、ドラッケンミラー氏、そしてロジャーズ氏などの金融のスペシャリストがみな緩和政策に反対しているのはそれが理由である。
別の道を行く中国
だが中国はその道を行かないようだ。この点についてロジャーズ氏は次のように皮肉っている。
皮肉なことに、中国共産党はわれわれアメリカ人より優れた資本主義者だ。アメリカでは企業を倒産させない。誰でも救済してしまう。
しかしそれは中国の不動産バブルはこのまま行くところまで行ってしまうことを意味する。不動産を老後のための資産運用の中心に置いている多くの中国人にとって、それは長期的な支出減になる。一時的な危機では済まないだろう。
この点についてロジャーズ氏は次のように述べている。
中国は倒産させると言っているし、彼らは本気であるように見える。
当然問題は起こるだろう。中国には巨大な不動産バブルがある。多くの負債が積み上げられた。
だがロジャーズ氏は、こういうことは米国経済の成長の途上でもあったと主張する。
アメリカは20世紀で一番成功した国だが、その途上では多くの問題に存在した。内戦や多くの不況や倒産が起き、議員の買収などもあった。
最後の点についてはロジャーズ氏は言い直す。
いや、議員は今でも買収できるが、昔は安かった。今1人買える価格で4人か5人は買えた。
そしてこう続ける。
アメリカにも問題はあったが、アメリカは非常に成功した。中国も多くの問題に直面するだろうが、次の世界的大国になる国は中国の他に思いつかない。ロシアでも他のどの国でもない。
人民元は国際的な通貨になるか
中国贔屓で知られるロジャーズ氏だが、1つ不満があるようだ。中国の通貨人民元について彼は次のように述べている。
まだ中国が人民元を国際通貨にしていないのは驚きだ。彼らは2005年から人民元を徐々に金融の世界でオープンにしているが、今はもう2022年だ。1922年ではなく2022年なのに、まだまだ全然人民元をオープンにしていない。
通貨と金融市場を閉鎖的にしたままで覇権国になることはできない。それらを開放するか、何処かで成長に陰りが見えるか、どちらかを選ばなければならない。
結論
今後、アメリカと中国の経済はどうなるだろうか。インフレで苦しむアメリカ、不動産バブル崩壊で苦しむ中国、自滅するヨーロッパも含めて、どの地域もまともな状況ではないように見える。
世界経済は瓦礫の山になるだろう。だがそこからいち早く這い上がるのはどの国だろうか? それが中国かどうかは分からないが、ゾンビ企業を潔く潰していることが長期的に中国経済を支えることは経済学的に確かである。一方、アメリカはもう利上げを断念する懸念が出てきている。
アメリカが好きか、中国が好きかにかかわらず、投資家は客観的な決断を下さなければならない。筆者はまだ決めかねているが、読者はどうだろうか。以下の記事によれば、ロジャーズ氏はコロンビアを選ぶそうである。