世界中が物価高騰に苦しむ中、8月10日に注目のアメリカ消費者物価指数の最新データが発表され、7月のインフレ率(前年同期比、以下同じ)は8.5%となった。これは前月の9.0%から減速し、しかも市場予想の8.7%をも下回っている。
インフレ減速
インフレについては専門家の間でも意見が分かれていた。経済学者のラリー・サマーズ氏は、特に賃金インフレによるサービスの値上げを強調してインフレはまだ収まらないと言っていた。
一方で、債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は金融市場のデフレ織り込みを根拠にインフレは鈍化すると主張していた。
そして今回のCPIデータはガンドラック氏に軍配が上がったように見える。インフレ率のチャートを掲載すると次のようになっている。
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7月の結果は明らかに減速しており、しかもチャートが3月からほぼ横ばいとなっていることには注目すべきだろう。
インフレはピークを迎えたのか? それを判断するにはいつも通りインフレデータの内訳を見て行かなければならないだろう。
家主のみなし賃料
CPIのうちどの要素が減速したから全体の数字が減速しているのか。まず家主のみなし賃料だが、こちらは5.8%の上昇となり急上昇を続けている。
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住宅全体でもやや鈍化はしているもののインフレが加速していることに変わりはない。今回の減速の原因は住宅市場ではなさそうである。
エネルギー
次はエネルギーであり、こちらは32.9%の上昇となり前回から減速している。
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結論から言えば、今回の減速の原因はこれである。エネルギー価格のインフレが減速したからであり、その理由は原油価格の推移だろう。
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6月のエネルギーのインフレ率急上昇は、ウクライナ情勢を受けて原油価格が3月に一時的に急騰したものが時間差で出てきたものと思われる。
その後、ロシアへの経済制裁が迂回されていることが分かると原油価格は元に戻っている。
しかし原油価格高騰の理由は元々ウクライナ情勢ではなく、脱炭素政策と政府による緩和であり、今後の原油価格は金利に大きく影響されるだろう。
サービス
次にサービスだが、サービス(エネルギー関連除く)は5.6%の上昇となり、前回から加速したもののその勢いは鈍化している。
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これは筆者にとって意外だった。雇用統計はインフレ的な兆候を示していたし、CPIの数字が雇用統計を先回りすることは考えづらい。
筆者は雇用統計が強く出続ける限りサービスのインフレは続くと考えているが、サマーズ氏の意見を聞いてみたいところではある。
結論
ということで、今回のインフレ減速はウクライナ情勢による原油価格の短期的変化を一時的に織り込んだことが大きい一方で、他の要素もやや鈍化してきていることも確かである。
株式市場は利上げが遠のいたと喜んでいるが、以前も述べたように金融市場の楽観はインフレの原因である。
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だが短期的には投資家はどう動くべきか。
ドラッケンミラー氏に従って年始からの空売りを手仕舞ったのは正しい判断だったが、これからどうするかは難しい問題である。一時的な原油価格の動きだけがインフレ減速の原因なら株の空売りを再開しても良いのだが、他の要素も鈍化し始めていることをどう解釈すべきだろうか。
あるいはやはりドルかもしれない。