アメリカの元財務長官でマクロ経済学者のラリー・サマーズ氏がBloombergのインタビューでまたまた面白いことを言っている。
フォワードガイダンス
今回、サマーズ氏が語るのは中央銀行が行う先行きの予想についてである。何故ならば、インフレの推移を含め、中央銀行の発表する見通しはほとんど常に間違ってきたからだ。
一番に挙げられるのは去年Fed(連邦準備制度)のパウエル議長らがインフレについて語っていたことだろう。
2021年、筆者やサマーズ氏、ジェフリー・ガンドラック氏などの論者が物価高騰を警告し続けていたにもかかわらず、パウエル氏は特に根拠なく「インフレは一時的」であると主張し続けた。
それに対して例えばガンドラック氏は次のように批判していた。
彼らは最初「一時的」というのを2週間か3週間の意味として使っていた。今や「一時的」は6ヶ月から9ヶ月ほどに変化した。そしてジェイ・パウエルはいまだインフレがただ過ぎ去ってくれることに希望をかけながら祈っている。刺激策が続くのにインフレが一時的だと考える理由が本当に分からない。
更に遡れば、現在行われているような金融引き締めが前回行われた2018年、パウエル議長は株価急落は自分の金融引き締めが引き起こしたものではないと主張し続けた。
その後の展開はここの読者も知っての通りであり、Fedが金融引き締めを止めなければ株安は止まらなかったため、パウエル氏は結局持論を撤回して引き締めを止めることになる。
その他にも、Fedがサブプライムローン危機は問題ないと言い続けたリーマンショック前夜の事例を挙げるべきだろうか。もう良いだろうか。
中央銀行は常に間違っている
この状況をジョージ・ソロス氏の名言をもじって言えば、中央銀行は常に間違っている。
これを踏まえれば問題となるのが、中央銀行が経済の先行きや金融政策の今後について発表するフォワードガイダンスである。中央銀行が未来について発表し、それが間違っているなら、フォワードガイダンスとは何なのか。サマーズ氏は次のように語っている。
かなり特別で特殊な状況を除けば、中央銀行にとってフォワードガイダンスは通常間違った方法だ。
フォワードガイダンスは、市場がそれを大して信じないという問題に陥りやすい。だからフォワードガイダンスは大した影響力を持てない。
しかも中央銀行は自分の信任を気にするので、過去に自分が出したフォワードガイダンスによる制約を受けてしまう。
まさに今の日銀の状況ではないか。インフレは善であるというそもそも何の根拠もない主張をもとに緩和を続けてきたために、通貨安が止まらなくなっても緩和に執着せざるを得なくなっている。
もはや緩和を続けるという選択肢以外を選べないのであり、それが経済に良いか悪いかなど関係がないのである。
一方、岸田首相は「金融政策を触るべきではない」として、明らかに為替に問題が出ているにもかかわらず、現状維持を主張している。自分で触ってから問題が悪化したら自分の責任になるからである。
誰も経済や国民のことなど考えていない。そして面白いことに、日本人はそういう人物ばかり選びたがる。
結論
アメリカに話を戻そう。問題は、いまだにFedは未来を予想し続けており、しかもその予想がどう見てもお花畑だということである。
以下の記事で解説したが、Fedはインフレ率が1年で急に7%も下落するにもかかわらず、アメリカ経済は問題なく成長すると考えている。
投資家としては、この状況を「市場の悲観が足りない」と考えたいところである。すべての参加者の悲観がマックスになった時が相場の底である。それは中央銀行をも含む。
まだまだ悲観の度合いが足りていない。中央銀行のフォワードガイダンスからそれが読み取れるという意味では、フォワードガイダンスも捨てたものではないのではないか。