対ロシア制裁で死にゆくヨーロッパ経済と上昇するスイスフラン

ロシアのウクライナ侵攻の後、西側諸国はロシアに対する経済制裁を行なったが、ロシア経済はダメージを受けていないどころか、経済制裁で上昇したエネルギー価格のお陰でむしろ儲かっている。

だがロシアの代わりに西側の制裁で死にかけている経済圏がある。制裁を行なったヨーロッパ自身である。

エネルギー価格高騰

アメリカやヨーロッパ(や無関係のはずの日本)がロシアに対して行なった経済制裁は、例えばロシアからエネルギー資源を輸入しないというものである。

だが原油のようにタンカーで何処へでも運べる商品に対する不買運動は何の意味もない。西側諸国が買わなければ、中国やインドやブラジルやハンガリーなどNATOの対ロシア戦争に関わりたくない国々が喜んで買うだろうからである。

実際、ロシア産のエネルギー資源はそうした国々に買われているどころか、そうした国々から西側諸国に転売されている。

一方で首が締まっているのがエネルギー資源の調達先を自ら制限した西側諸国である。

アメリカは自分自身が産油国だからまだ良い。しかしヨーロッパはエネルギー資源を持たないにもかかわらず、世界有数の資源国であるロシアを購入先から締め出したため、深刻なエネルギー不足に悩まされている。

しかもそれだけではない。フランスなどはインフレ対策で現金給付を行なって更に自分の首を絞めている。

完全に無意味な自殺行為なのだが、誰か彼らの行動原理を説明してくれるだろうか。

こうした状況に反発するEU加盟国もある。例えばハンガリーである。ハンガリーのオルバン首相はEUの状況を次のように皮肉った。

最初、われわれは自分の足を撃ち抜いただけだと思っていたが、実際には欧州経済は自分の肺を撃ち抜き、息も絶え絶えになっている。

制裁は間違いであり、目的を果たしていないどころかむしろ逆効果だったということをEU指導部は認めなければならない。

だが政治の世界でまともな意見は聞き入れられない。そして日本でも報道されない。そういうものである。

瀕死のヨーロッパ経済

現在のヨーロッパ経済はどうなっているのだろうか。実際の数字を見てみよう。

まずは注目のインフレ率から見てみよう。

これはユーロ圏のインフレ率だが、5月の数字で8.1%となっている。

アメリカの9.0%と良い勝負だが、アメリカほどの規模で現金給付を行なったわけでもないのにインフレ率が拮抗しているところに、むしろ深刻さを感じさせる。

原因は欧州が産油国ではないため、アメリカ以上にエネルギー価格が高騰しているからだろう。

ユーロ圏のGDPはどうなっているかと言えば、次のようになっている(成長率ではなくそのままの数字である)。

コロナで落ち込み、そしてようやくコロナ前の水準まで回復した。コロナ対策で現金給付などの財政出動を行なったからだが、その代償は8%のインフレである。

お金をばら撒いたのだから当然の結果である。

現金給付を喜んだ人々に聞きたいのだが、何もタダで降ってきたりはしないということを何故理解できなかったのだろうか。タダで降ってくるのはインフレくらいのものである。いや、彼らはインフレを欲していたわけだから、それで良かったのか。

下落するユーロ

だがユーロ圏の問題はインフレだけではない。死に体の欧州経済から当然のように資金が流出している。ユーロドルのチャート(下方向がユーロ安ドル高)は次のようになっている。

だがこれだけではドル高の分も含まれているので、もっと分かりやすいチャートを用意しよう。ユーロスイスフランのチャートである。

スイスはヨーロッパの中央にあり、経済的にはある程度一蓮托生だが、ユーロ圏とスイスでは財務状況が正反対である。

ドイツと南欧諸国の対立や、そこから生じる経済弱体化、上述したフランスなどの愚かなコロナ対策にスイスは関わっていない。ユーロ圏の問題については以下の記事に詳しく書いてある。

一方でスイスは昔から堅牢な財政を誇ってきた。元々財政黒字の国であり、コロナ後は流石に赤字になったが、来年には黒字に戻る予定となっている。借金に頼らないまともな国なのである。

これらの対比から、ユーロスイスフランのチャートは常にユーロ圏の衰退のチャートとなっている。ユーロ圏の問題が表面化すればするほど、ユーロはまともなスイスフランに対して下落し、ユーロスイスフランのチャートが下に向く。

結論

だから筆者は以前からユーロスイスフランの空売りを続けてきた。コロナ後のインフレをアメリカの覇権の終わりと見る専門家も多い。

だが筆者はアメリカより先に、元々死にかけていたヨーロッパが死ぬと考えている。コロナ直後の以下の記事で次のように書いたことを思い出してもらいたい。

ダリオ氏はアメリカの覇権の凋落を気にしているようだが、恐らくそれはヨーロッパに一番当てはまる表現だろう。ヨーロッパが先進国となってから数百年だが、コロナショックの後にはイタリアを含むヨーロッパ諸国の大半は先進国とは呼べない経済状況になっているかもしれない。今回の世界恐慌はそれだけ大きいものなのである。

これは2020年4月の記事だが、いよいよコロナ対策のツケを払う時が来た。株式の空売りとコモディティの買いをある程度利益確定した後、ヨーロッパ凋落トレードは筆者の主要な利益源の1つとなってくれている。

今後もヨーロッパ凋落指数であるユーロスイスフランのチャートに注目したい。