サマーズ氏: 物価高騰は中央銀行が環境問題にかまけてインフレ抑制を怠ったせい

アメリカの元財務長官で経済学者のラリー・サマーズ氏による中央銀行批判が止まらない。それもそうだろう。インフレは完全に人災であり、それを引き起こした張本人たちは、いまだにそれを認めていないからである。

Bloombergのインタビューから、サマーズ氏がインフレについて語っている部分を紹介したい。

中央銀行の職務

中央銀行の責務とされていることはそれほど複雑なことではない。そして専門家であれば、容易ではないが、可能なことである。それは例えばサマーズ氏が現在のインフレをきっちり予想したことでも明らかだろう。

これが去年5月の記事だということを信じられるだろうか。何故誰も耳を貸さなかったのか。いつものことである。

彼は元財務長官であり、極めて優秀でありながら政府の役職に就くことを厭わない珍しい人物だが、この物価高騰の状況で中央銀行を率いているのは残念ながら彼ではない。

そして彼の目から見て今の中央銀行はどう見えるのか。彼は次のように語っている。

中央銀行に求められるのは、経済を正確に分析すること、そして彼らの最大目標が物価安定であることを忘れないことだけだ。だが率直に言えば、2021年にアメリカの中央銀行はそれを忘れてしまったらしい。

読者にも周知の通り、アメリカの中央銀行は長らくインフレを楽観視し放置してきた。パウエル議長はインフレは一時的だと主張していたが、根拠は特になかった。

何度も言うが、パウエル議長にマクロ経済の予測が出来るわけがないだろう。彼はプライベート・エクイティ・ファンドの出身であり、PEファンドとは要するに個別の非上場企業を買い、場合によっては経営の内部に入り込んで企業再建を行う、個別株の専門家である。

それが何故いきなりマクロ経済の予測が出来るようになるだろうか? 彼は共和党員だというだけの理由でトランプ元大統領に選ばれただけなのである。

中央銀行と環境問題

彼らは経済に関してまったく間違った予想をオウムのように繰り返す一方で、環境問題に熱を上げているリベラル派の民主党の圧力に押されて、物価安定を扱うべき中央銀行が環境問題を扱うべきかについて議論していた。

サマーズ氏は次のように述べている。

2021年、中央銀行は環境問題について語っていた。あらゆる「社会的正義」について語っていた。そしてインフレについては、一時的なものだから問題ないと自信を持って主張していた。

中央銀行と環境問題にどういう関係があるのか、もはや日本人には意味が分からないのだが、環境問題専門の政党まで出来ている欧米の社会では中央銀行が環境問題を扱うことが当たり前らしい。

だがもしかしたら中央銀行は環境問題を扱うべきだったのかもしれない。何故ならば、リベラル派の押し通した脱炭素政策がインフレの主要原因の1つとなったからである。

皮肉にも、彼らのお陰で環境問題はインフレと密接に関わるようになっている。脱炭素政策が原油採掘業者への資金供給を無理矢理止めたせいで彼らは原油が掘れなくなり、それが原油価格高騰に繋がったからである。

環境が問題だというより、彼らが問題なのである。今では彼らは必死にインフレはロシアのせいだと主張している。だが、これまでの原油価格上昇の原因のうちどれだけが、今年の2月末に始まったウクライナ侵攻であるかは、原油価格のチャートを見れば分かる。

彼らの主張によれば、ウクライナ侵攻は過去にも影響を与えられるようである。

しかし脱炭素な人々は、そんな政策をすれば社会が原油不足に陥るということを予想できなかったのだろうか。彼らは馬鹿ばかりなのだろうか。

結果として、「エコな人々」の選出したバイデン大統領は、今週サウジアラビアに原油の採掘を拡大してくれるよう頭を下げに行った。サウジアラビアは当然だがバイデン氏を軽くあしらっている。

ヨーロッパでは天然ガスや原子力が「持続可能」なエネルギーかどうかで大激論を交わしている。もはや彼らは何をやっているのか意味不明である。

結論

サマーズ氏はこう纏める。

われわれは何も無茶なことを中央銀行に要求したりしていない。だが、にもかかわらず、2021年に中央銀行は経済にかなりの悪影響を与えた。

本業を全うすることは出来ないが、余計なことは可能な限りやる。それが政府の機関というものである。

今回の話と、以下の記事を纏めると、現在のインフレの原因がほぼ完全に網羅できてしまう。

呆れてものも言えないが、筆者が一番呆れているのは、こういう人々を政府に据えて、何の問題も感じていない有権者たちである。

彼らには是非インフレをエンジョイしてもらいたいものである。物価目標とか言いながら散々インフレを目指してきたのだから、インフレが起こってさぞ喜んでいることだろう。